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▼ 伊東さんと、手を差し伸べたお妙さん。

(伊東と妙)




油断した。
伊東は自身の腕をグッと掴む。致命傷ではないが浅い傷でもない。痛みに眉を潜めれば、袖の下からぽたりと血が落ちた。
自分には味方もいるが敵もいる。いや、敵の方が多いのかもしれない。そういう生き方しかできなかった。それを悔いているわけではない。相手を「駒」と思い利用しているのは自分も同じなのだから。
汚れた壁に寄りかかり、薄暗い路地裏で息を吐く。思わず笑ってしまった。こんなものが望んだ人生なのだろうかと。

「・・・伊東さん?」

その声は少し離れた場所から聞こえた。内心の動揺を隠しつつ、伊東は何事もなかったかのように顔を上げる。

「ああ、妙さんじゃないですか。久しぶりですね」

さりげなく土の上に落ちた血の痕を靴で消し、痛めた腕を隠す。人を騙すのは得意だ。目を見て嘘を吐けばいい。

「ああ、こっちには来ない方がいいですよ。着物が汚れますし。僕も仕事の連絡がなけりゃ、こんなところ居たくないですから」

暗に近づくなと告げた。あくまでも冷静に、親切ぶって。こういうことだけ上手くなった。
志村妙は聡い女だ。きっと自分の意図が伝わっているという確信が伊東にはあった。現に妙はそれ以上踏み込んでこようとはしない。
だが、妙は伊東が考える以上に聡い女であった。

「お怪我をされてるんじゃありませんか」

ふわりと撫でるような声。責めるでも訝しがるでもなく、普段通りの優しいそれが伊東の耳に響いた。

「もしもそうなら、手当をさせてもらえませんか」

妙は気付いている。負傷している事実を、伊東が隠そうとしている事に。
だが、それを隠そうとしている伊東の意思を尊重し、気付かないふりをしてくれているのだ。理由は聞かず、真実を確かめず、その場凌ぎの嘘だと分かっていながら伊東の言葉を受け入れて。そのうえで手を差し伸べてくれている。

「・・・何でもないから、気にしなくていいよ」

白く細い指先。その手を掴めたらどんなにいいか。
でも、掴むにはもう遅すぎて。

「僕なら大丈夫だから・・・でも、ありがとう」

嘘を吐くのが上手くて良かったと初めて思えた。
もっと早く君に逢えていたなら、もう少し上手に生きていけたのかもしれない。


深い森
2015/01/13


→原作沿いで伊東さんを書くときに動乱編は無視できません。最終的にはああいう結末を迎えるのだと思いながら伊東さんを書いています。(パロディでは楽しくやってますけどね笑)
伊東さんからは常に別れの気配がします。そこが好きだったりもします。
緑色のイメージから静かな深い森が浮かびました。似合いそうな緑色を探している時に見つけたのが鴨の羽色という緑色です。イメージにピッタリすぎて、もう伊東さんのテーマカラーでいいんじゃないかと思ったり。

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