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▼ 神威のお母さん的な?姉上

(神威と妙)






雲一つない、月の綺麗な夜だった。月の光は平気だと言っていたけれど、神威は開いた傘を肩にかける。こっちの方が落ち着くんだと笑った。

「・・・ここに血が」
「ん?あー、俺のじゃないよ」

傘を持つ手。その拳が赤く染まっていた。

「あれ、妙怒ったの?でも殺してないし、殴ったのは俺の部下。夜兎は丈夫だから、これくらいじゃ死なないよ」

神威が言い訳じみた台詞を続ける。妙がそういうものを良しとしないことを神威は知っていた。だから無自覚のまま、そういうものを妙から隠してしまう。阿伏兎が聞けば驚いたことだろう。こんなふうに他人を気にかける神威など見たことはないと。

「そういうことではないんですよ」

妙がそっとその手をとった。見た目の少年臭さとは違う、しっかりとした造りの固い手のひら。

「痛いでしょうに」
「どっちが?」
「どちらもですよ。この手は殴るためだけにあるのかしら」

血の痕は、よく見れば傷口から流れたものもあった。すでに乾き、皮膚にこびりついた血を撫でる。

「妙ってさあ」

神威と妙の視線が絡む。

「うるさいよね」

神威がふはっと息を吐くように笑った。

「そういうとこ、おかあさんみたいだよね」
「お母さん?」
「もういないから、よく分からないけどね」

軽く肩を竦め、神威は月を見上げる。
彼にも母が居た。彼の怪我を心配し、彼を慈しんでいた母が。その事が、妙は嬉しかった。

「あなたのお母さんは、どういう方ですか」
「どんなって」

神威の瞳が微かに細まる。

「神楽のことを可愛がってたよ」
「神威さんのことも、でしょ」
「俺は夜兎としてなら出来が良いけど、息子としてなら出来が悪いからね」

妙を見て、唇の端上げる。それが本心ならば、彼はきっと何も分かっていない。

「可愛がっていましたよ」

妙がそうっと手を伸ばした。その手に敵意はない。だから神威は動かない。

「この髪、綺麗に編まれてますね。ご自分で?」

頬を掠めた手は、神威の肩から垂れる編まれた髪を撫でた。

「自分でやってるよ。面倒な時はやってもらうけど」
「私も髪は自分で結い上げますよ・・・母に教わりました」

妙が何を伝えようとしてるのか、ようやく神威にも理解できた。

「あなたに編み方を教えたのは誰?」

柔かな手つきを思い出す。確かに自分に向けられていた愛情というもの。
神威がすうっと深く息を吸い、それをまた深く長く吐き出した。

「やっぱり妙はおかあさんみたいだ。お節介で小言が多くて」

月が綺麗な夜は思い出す。窓から眺めた静かな月夜。傍らには柔らかな手の温もり。

「でもずっと、忘れられない」

手のひらの温もりは、あの時と似ていた。



2014/12/01


神威といえば原色!というくらいパキッとした色合いが多かったのですが、姉上と混じると若干柔らかくなるのかなーと。
血の赤を平気で纏う彼ですが、姉上と居るときは少しだけその赤が薄まるのかもしれないですね。月の光で溶かしたように。そんなイメージが浮かびました。
神威妙だと殺伐とした話ばかり書いてしまいますが、こんな話もまた神威妙の魅力だなあと。

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