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▼ 副長と姉上が付き合ってると誤解されてる+山崎

(土方と妙と山崎)





その噂は前から山崎の耳に入っていた。情報収集も山崎の仕事の一つ。様々な情報を集めている時に、その噂がたまに紛れ込んでくるのだ。
しかし誰がそれを真実だと思うだろう。二人を知ればなおのこと、それが真実とは程遠いのが分かる。
真選組副長と志村妙が"できている"なんて。
実際その姿を見るまで、山崎は信じてなどいなかったのだ。




「土方さん」

妙は黒い後ろ姿に声をかける。振り向いた男の顔が妙をみとめ、僅かに表情を緩めた。

「お待たせしてしまいましたか」
「いや、一服してたとこだ。なかなかゆっくり味わう暇もねえからな」
「年末は何かとお忙しいのでしょうね」
「息抜きも仕事みてえなもんだ」

妙から顔を背け、ふうっと煙を吐く。

「土方さん、これ」
「ああ。いつも悪いな」

差し出された包みを受け取り、土方がそれを大事そうに見つめる。

「私がしたくてやってることですから。貴方が、好きだと仰ってくれるのが嬉しいんです」

ふわりと微笑む妙を見やり、土方は口に煙草をくわえる。そして空いた手で、妙の髪をそっと撫でた。
次の瞬間、土方の携帯が音をたてる。まるで図ったかのようなタイミングだ。

「呼び出しですね、では私はこれで。また連絡します」
「ああ、期待してる」

土方は携帯をさぐりながら妙に手を挙げた。




「・・・ちょっと土方さん!なにやってんですか!!!」
「ああっ!?」

すぐにきれた携帯に折り返してもコール音が続くばかり。苛々しつつも携帯を耳にあてながら停めてあった車に乗り込めば、後部座席からいきなり声が飛んできた。

「おまえ、山崎じゃねえか・・テメエ何やってんだよ!」
「仕事ですよ!」
「仕事だあ?パトカーの後部座席に気配消して忍び込むのが仕事か!?あ!?」
「忍び込むのは大得意です!!でも今はそれどころじゃないでしょ!?」

携帯を握りしめた山崎は興奮気味に詰め寄ってくる。ここから土方に電話したらしい。

「土方さん、姐さんと噂になってるってご存知ですか?」
「は?俺とあの女がなんの噂になんだよ」
「できてるんじゃないかって」

あまりの驚きに土方は声もでない。なんだその噂は、一体なんでそうなった。
絶句する土方をよそに、山崎が続ける。

「二人が会話をしてるとこを見て、みんな勝手に噂してたんですよ。美男美女でお似合いだーとか、並んでると絵になるなーとか。その噂が独り歩きしちゃって、今では二人は局長に内緒で逢い引きしてるとか、実は三角関係で土方さんが一歩リードとか、そこまでいっちゃってるんです」

少し冷静になったのか、山崎は携帯をしまうと土方に向き直る。

「でも俺はただの噂だって思ってましたよ。だってお二人にそんな事実がないって知ってますから。もしもそうであったって、土方さんが局長を出し抜くなんてしないでしょうし」

なのに、と山崎が声を震わせる。

「実際見ちゃいましたからね。あんなふうに待ち合わせして、何か差し入れしてもらっちゃって、しかも姐さんに好きだって言ったんでしょ・・・!」
「いや、あれは」
「しかも見せつけるかのごとく姐さんの髪撫でたり!俺もう我慢できなくて電話しちゃいましたよ!」
「あの電話はそれか・・・」

土方は呆れたように山崎を見やる。まさかここまで綺麗に誤解されてしまうとは・・・。

「髪を撫でたんじゃねえ。髪に止まろうしてた虫を払ったんだ」

煙草を吸いながら、ゆったりとした口調で事実だけを淡々と喋る。

「俺が好きだっつったのはこれだ」

山崎は差し出された包みを受けとると、中に入っていたものを確認する。

「・・・なんですか、このもったりとした物体は」
「手作りのマヨネーズだよ。たまに屯所の冷蔵庫に入ってんだろ」

確かにある。でん、と冷蔵庫の真ん中に鎮座している謎の物体。

「あれって、これなんですか?」
「ああ」

なんとなく読めてきた。山崎の勢いが急速に萎む。

「大体な、隠れてこそこそ会ってた覚えはねえよ」
「いやだって、副長と姐さんってなんか怪しい雰囲気なんですよね」
「なにが」
「並んで話してるだけで秘密の匂いがするというか」
「手作りマヨネーズの作り方を教えてるだけだ」

妙が嬉しそうだったのは自分の手作りしたものを好きだと言ってもらえるから。基本的に料理好きな妙は、人に振る舞うのも大好きだ。ただし出来上がりはお世辞にも美味いとは言えない。山崎も痛い目にあったことがある。
だが、味覚に難ありな土方に妙の手作りマヨネーズが合っていたらしい。妙がマヨネーズを手作りする日は連絡が入り、わけてもらっていたようだ。それを土方は隠していなかったが、土方がマヨネーズを持っていても特に気にならないから、屯所では誰も気にしていなかったのだ。

「それだけですか」
「それだけだ」

嘘を吐いているようには見えない。本当にそれだけなのだ。そんな些細なことで噂になる男女。自分も誤解してしまったとはいえ、その影響力には乾いた笑いしかでてこなかった。


椿
2014/12/07


なんてことのないことでも噂になる二人。すごく絵になる二人だと思います。見ちゃうよね。二人が話してたら見ちゃうよね。噂しちゃうよね。
二人を書くとやはりどことなく色気が漂いますね。二人の場面は赤い花をイメージ。そこに山崎が加わると途端に明るく穏やかな雰囲気が漂うから不思議です。なんだろ、ポピーみたいな可愛い感じ(笑)というかポピーって急に頭に浮かんだんだけどなんでだろう(笑)ひなげしですね、和名は。
あと、なんか多分二人とも恋愛経験少なそうだから自然と口説き文句を発し、自然と受け流してるんだと思います。二人とも(笑)

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