▽ オビワン兄さまとちび妙
「オビワン兄さま!!」
道場の庭にある大きな松の木の影から鈴のような声が聞こえた。自分をこの愛称で呼ぶのは一人しかいない。男は満面の笑みを浮かべてその名を呼んだ。
「お妙ちゃん、こっちだ」
道場で流した汗を拭きながら、そちらを見やる。するとそこにある草木がざわざわと動き、そこから女の子が飛び出してきた。
「オビワン兄さま!!」
「おおっと、」
勢いよく男に抱きついてきた女の子はこの道場の娘だ。まだ十にも満たない、可愛らしい女の子。
「お帰りなさい!!」
「ハッハッ!ただいまお妙ちゃん。お妙ちゃんは元気が良いのお」
「いつお帰りになったの?」
「今朝じゃ、お妙ちゃんはまだ寝てたからなあ」
「帰ったら一番に教えてくれるっていったのに」
「そりゃ悪かった!」
腰にしがみついて見上げてくる女の子は頬を膨らませた。拗ねたのだろう。そんな様子に尾美はニコニコと笑んだまま女の子の頭を撫で回した。
「次は必ず一番に知らせる。約束じゃあ」
「本当・・・?」
疑う言葉の中にも期待を隠せない瞳が尾美を見上げる。肩の上で切り揃えられた黒髪が風に揺れた。
「本当。わしがお妙ちゃんに嘘吐いたことあるか?」
「ある」
「あ、・・・」
珍しく呆けた顔の尾美を、女の子は大きな目をくりくりさせて見つめる。そして、ぷっと吹き出した。
「ふ、ふふっ、!」
その可愛らしい顔中にみるみる笑みが広がる。
「あはは!!兄さまへんなかおー!!」
笑うとは、花が咲くようなものだと思った。
「・・・フッ、ハッハッハ!!そうか!変な顔か!」
「うん!」
「そうだ、お詫びにお妙ちゃん」
「なあに?」
首を傾げた女の子の脇に手を通し、そのまま高く抱き上げた。
「ほおらお妙ちゃん、たかいたかいじゃあ!」
「わー!にいさまたかーい!」
「アハハハ!そうら、今度は速ようなるぞー!!」
「わあ!あははは!」
尾美は軽々と女の子の身体を抱えて回る。
太陽よりも眩しい花が尾美に降りそそいでいた。
オビワン→←ちび妙
恋愛感情でなくても、オビワン兄さんはお妙ちゃんが好きだったと思います。お妙ちゃんの笑顔が好きだったと思います。
書いててあまりに幸せで泣きそうでした(。・ω・。)
書き途中のまま公開になっててビックリした(笑)
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