▽ 土方副長とお妙さんと携帯
「携帯まで黒なんですね」
土方がそちらを見やると、その先にいた妙が視線を受け止めて笑った。
「───ああ、続けてくれ」
視界に妙を映したまま、土方は電話の向こう側と話を続ける。低い声であるから相手は男、隊士だろうか。
「ああ、それは任せる。経過だけ報告しろ」
何かを指示しながら煙草を灰皿に潰し、妙を手招きする。まるで猫かのような扱いに妙は気を悪くするでもなく、笑みをたたえたまま土方の傍らへと寄った。
「以上だ。報告は明日でいい・・・だから、今日はもうかけてくるなって事だ、おつかれさん」
通話口から慌てたような声が聞こえるが、土方は構わず通話を切ると、黒い携帯を枕元へと軽く投げた。
「待ちくたびれた」
「まあ。待っていたのは私ですよ」
土方は妙を抱き寄せ、急くように唇を重ねる。
「変わったことはねえか」
軽く口づけてから、妙の頬を両手で包む。こうやって触れたのいつぶりか。遥か彼方のように思える。
「少し痩せちゃいねえか。ちゃんと食ってるのか」
「はい。変わったこともありません」
頬にある土方の手に己の手を重ねて微笑む。
「浮気はねえよな」
「もちろん。土方さんこそどうなんですか」
「そんな暇があるならお前に逢いに行くな」
額に、まぶたに、目尻に、鼻先に。土方は軽い口づけを落としていく。妙の頬が色づき、それが土方の手のひらに染み渡る。妙が居るのだと実感する。実感すればもっと欲しくてたまらなくて、餓鬼かよと内心苦笑した。
「黒がなんだって」
着物の帯を解き、襦袢姿の妙を布団に横たえさせる。
「隊服も貴方の髪も目も黒で、携帯もだったから」
「そういやそうだな」
妙の上に跨がり、隊服を脱いで上半身裸になる。程よくついた筋肉と、肌に残る傷痕。
「似合うなと思ったんです」
「そうか」
襦袢の紐を解き、腰の辺りに手を伸ばす。そこから手をすべらせて、何かを確認するように肌を撫でた。
「やっぱり痩せてるじゃねえか。もうちょっと肉あっただろ」
鎖骨に唇に口付け、首筋に舌を這わせる。
「んっ、」
「後で飯作ってやる。一緒に食えばもっと食えるだろ」
「マヨネーズご飯ですか」
「黒い玉子焼きもな」
いつもは鋭い眼差しが柔らかな曲線を描き、目尻に笑い皺ができる。土方にしては珍しい表情も、妙の前なら当たり前になった。
「黒がお好きなんですね」
目尻に指を這わせながら妙が微笑む。優しい感触がくすぐったくて、土方がふはっと笑った。
2013/11/02
あまり逢えないぶん、デートの時はイチャイチャしてそうな二人です。
でもどこかあっさりした感じで。
仕事モードの副長と恋人のモードの土方さんのギャップが激しそうでもあります。そこがいい!
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