▽ 沖田くんと志村さんとスマホ
窓に背中をもたれさせていると、日差しに肌を焼かれた。夏ほどの熱さはないが、衣替えで長袖になった制服の袖をまくりたくなるくらいには強い日差しだ。素肌をさらした腕にはしっかりと筋肉がついており、繊細な顔立ちには程遠い男らしさを感じさせた。薄茶色の髪が陽に透ける。
「───どうしやした」
沖田はスマホを操作していた手を止めて妙を見やった。
「かっこいいから見惚れてたの」
「惚れ直した?」
「どうでしょう?」
妙が笑って、沖田の傍らへと寄った。肩と肩がこつんとぶつかる。ここは妙の特等席だ。
「ごめんね、待たせちゃって」
「もう終わった?」
「うん。帰ろう」
「あー・・・」
渋る沖田に妙が小首を傾げる。
「志村さん、ちょっと待って。これすぐ終わるんで」
スマホを軽く振って、これと指差した。
「メール?」
「んや、ゲーム」
「ゲーム?」
「そう」
ふうんと呟くと、妙はそっと沖田から離れようとした。傍に居ては気が散るかもしれない。少し離れた所に立ちメールの確認でもしようかと思ったのだ。しかしすぐに気付いた沖田が妙の手首を掴んで引き止める。妙の腕よりも逞しい腕に引き止められては動きようがない。
「どこ行くの志村さん」
「ちょっと向こうに」
「なんで」
「なんでって、待ってる間にメールを・・・」
「ここですりゃあいい」
でも、と言いかけた妙を引き寄せる。石鹸の香り。温かくて、肌の近くだともっと良い香りになる。
「ここでどうぞ」
沖田は素知らぬ顔で妙を抱き寄せた。その体勢のまま器用にスマホの操作を続ける。目線はほとんど同じで、すぐ近くに互いの顔があった。
「メールしにくいよ」
「そりゃ残念。諦めて他のことでもしときなせえ」
妙の不満は気にも止めず、慣れた手つきで画面を触る。
「他にって、何もできないじゃない」
「なんで」
「沖田くんが掴んでるから動けない」
「顔なら動きやすぜ」
「そんな、顔だけ動かせて何するのよ」
「さあ?俺にキスしたりとか?」
視線を妙へと流した沖田は、そっと顔を傾ける。
「俺が志村さんにキスしたりとか」
「え、・・んっ」
重なりあった唇は柔らかくて、ほのかに甘い香りがした。沖田から食べるように挟まれた唇を舌でこじ開けられ、歯を舌先でつつかれる。思わず開けてしまった口に、ころりと何かが押し込まれた。
「───沖田くんこれ」
「あげる。志村さんに好きなぶどう味」
「食べかけじゃないのが良かった」
「贅沢言わねえの。一つしかねえんだから」
ころりころりと、口の中で転がる甘いお菓子。
「・・・おいしい」
「でしょ」
「おいしくてくやしい」
「はは、そうですかィ」
目尻を下げて笑った沖田はスマホをしまい「新しいの買ってあげる」と、妙の手をとった。
2013/11/01
※スマホを想像でしか知らないことに書き始めて気付く。痛恨のミス!
沖田くんとスマホは似合いすぎて絵面を想像しただけでときめいた。
カッコイイ沖田くんに惚れ直した志村さんと、そんな志村さんに毎時間惚れてる沖田くん。
毎日イッチャイチャしてたらいい
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