「知ってる?昨日の夜、うちの学校の生徒が飛び降り自殺したって話。」
「聞いた!3年生の子で、何か凄い可愛い女の子だったらしいね。」
「そうそう。クラスでも人気のある子だったから、どうして自殺したんだろうって。まだ理由が分かってないらしいよ。」
「えー!何だったんだろうねー!もしかして影でいじめられてたとか?」

氷帝学園2年C組。この教室だけに限らず、今やこの学園中が昨夜、自宅の高層マンションの屋上から飛び降り自殺したという女子生徒の話題でもちきりだった。本当に今日は何処にいてもこの話ばかりだな。俺は聊かうんざりしながら、一番後ろの窓際にある自分の席へと腰を下ろした。確かに平和な日常の中に飛び込んできた非日常的なニュース。言い方は悪いけど、盛り上がってしまうのも仕方のない事なのかもしれない。だけど信憑性もない想像で話を盛り上げたり、面白半分興味本位で話題をふるのが、俺はどうにも気に食わないでいた。朝のホームルームが始まるまで昨日、読み始めたばかりの小説でも読んで本の世界へと逃げてしまおうか。パラパラとページを捲っていた時、同じクラスの清水さんが「鳳くん!」と駆け寄ってきた

「鳳くんも自殺した子の話、聞いた?」

やっぱりその話題なのか。俺は内心、溜息を吐きながらも話を聞くために中途半端に開いていた本を静かに閉じて机に置いた

「竹下から聞いたよ。」
「やっぱり鳳くんも知ってたんだね。何だか怖いよね。」

朝練の時間、同学年であり同じテニス部員でもある竹下は、友人伝手にこの話を聞いたのだと自主練習中にも関わらず、興奮気味に話して聞かせてくれた。それから事のあらましと自分の見解を踏まえて語りつくした竹下は、満足とばかりに「じゃあな。」と、まだこの話を知らない人の元へと走って行ってしまったのは記憶に新しい。そしてその後、予想通り竹下は跡部先輩に練習しろと叱咤されていたっけ。その出来事を思い出しながら、俺は清水さんに「そうだね。」と応えて曖昧に笑った

「鳳くんもやっぱり、いじめが原因だと思う?」
「…さぁ、どうだろう?」

“鳳くんも”ってことは、殆どの氷帝生がいじめを苦にした自殺だと思っているのだろうか。そんなこと憶測でしかないのに。俺は「ごめんね、分からないや。」とぼける様に誤魔化して、笑っておいた

「でもね、
「皆、席につけー!ホームルーム始めるぞ!」

その時、タイミング良くこのクラスの担任である原口先生が、尚も話を続けようとする清水さんの言葉を遮って教室に入ってきた。途端にガタガタと自分の席に着席していくクラスメイトに清水さんは、「じゃあ、鳳くんまた後でね。」そう言って、俺の席とは全く反対の一番前の廊下側の席へと小走りに戻っていった。結局、本を読むことは出来なかったな。続きはまた休み時間にでも読もうか、そう思って俺は文庫本を鞄の中へとそっと仕舞って、視線を原口先生へと向けた

「まず最初に。皆も知ってると思うが昨夜、うちの学校の生徒が亡くなった。その件についてなんだが、どうもあること無いこと色んな噂が流れてるらしい。どれも信憑性のないただの噂でしかないから。信じたり、広めたりすることのないように。この件については、警察や学校側の方で調査をしていくから、お前らは絶対に首を突っ込んだりするんじゃないぞ。」

そう締めくくって、もうこの話は終わりだと言う原口先生に、口々に生徒からの言葉が飛んでいった

「先生!実際のところ、自殺した理由とか分かってるんですか?」
「やっぱり、いじめなんですか?」
「どうなんですか?」

途端にまたわーわーと騒がしくなる教室に、「静かに!」と原口先生は教卓を軽くバンバンと2度叩いて、また話始めた

「もちろんまだ理由は分かってない。それに、いじめとかそういう事実も出てきていない!言っただろ?それは単に噂でしかないから信じるなって。あーもう、とりあえずこの話は終わりだ。それに、今日からこのクラスに転校生が来るからな。おい、入ってきてくれ。」

今日は朝から、亡くなった3年生の話題一色だったからなのか、転校生が来るなんて全く知らされていなかった俺達は、不意打ちすぎる原口先生の言葉に「え?」と驚きに固まってしまった。だけどそんな俺達を置いて、どんどん話は進められていく訳で。ゆっくり開けられた引き戸からは、少し申し訳なさそうに笑った女の子が、1度会釈をした後、静かに黒板の前へと歩みを進めた

「今日からこのクラスの一員になる、倉崎 陽菜さんだ。皆、仲良くしてやれよー。」
「えっと、神奈川から転校してきました。倉崎 陽菜です。宜しくお願いします!」

彼女がもう1度、会釈をすれば胸下まで伸びたオレンジブラウンの髪の毛が、さらりと揺れた。オレンジの様に鮮やかな色をした橙色の瞳を、恥ずかしそうに細めて笑う彼女は何処か暖かくて、「…陽だまりみたいな子だな。」なんて、それが俺が倉崎さんに抱いた第一印象だった


初めましてと今日は
(それはとても綺麗な目をした人)

我が家の鳳くんは真っ白わんこ属性です!

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