忘れていた訳じゃないんです
「今からする質問に、嘘偽りなく話せ。少しでも嘘だと分かれば即刻、その喉を切り裂く。」
「…は、はい…。」

の、喉って何だ物騒すぎやしないか…。未だに殺気を含ませたギラついた視線を向けられ、天津さえ喉を切り裂くと脅されて、私は背筋がぶるりと震えるのを感じた。やっぱり、ルカリオをボールに戻したのは失敗だったかな…

「お前は何者で、此処で何をしていた。」
「…私は、カノコタウン出身のコトリです。この森で迷ってしまう前はフキヨセシティの草村で修行をしていました。」
「…何の修行だ?お前はくのいちなのか?」

くのいち?くのいちって確か、女性の忍のことだったっけ?確か東の地方にそういった職業があると聞いたことがある。でも何で此処で忍という言葉が出てくるのだろう

「いえ、私はくのいちではありません。私はもっとたくさんのポケモンと出会いたくて旅をしている途中で、次のフキヨセシティのジムリーダーに挑戦するためにピカチュウと修行をしていたんです。」

そうだ。私はフキヨセシティのジムリーダーフウロさんに挑戦するために、近くの草村でピカチュウと新しい技の修行をしていたのだ。そこでプラズマ団と一悶着あって爆発に巻き込まれ、気づけば此処にいた

「……お前の言っているそのポケモンや…ピカチュウ…とやらは一体何のことだ。」
「…え、ご存知ないんですか…?」

まさかこの世界にこれらの単語を知らない人がいたなんて。此処の森の住人はあまり外界とは接触しないのだろうか。だけどポケモンを知らないなんて…。何て説明しよう…ポケモンの説明って今までしたことが無いから、いざとなると難しすぎる…。私、説明ってあまり得意じゃないんだけどな…

「…えっと…まずポケモンとはポケットモンスターの略で今、発見されているだけでもポケモンの数は649匹いると言われています。先程の青いモンスター、彼はルカリオと言って、彼もポケモンの中の1匹です。彼らは通常この赤いボール、モンスターボールの中に入ることが出来て、どんなに大きなポケモンでもモンスターボールに入ってもらえれば、6匹までなら簡単に持ち運びすることが出来ます。私もこのモンスターボールの仕組みは分からないので何故、入るのかっていう説明は出来ないのですが…。」
「…………。」

説明すればする程に、彼の眉間の皺が深くなっている気がする。私の大ざっぱは説明じゃ意味不明すぎただろうか…。えっと、後の質問は何だっけ。ポケモンの説明はこれで出来たから確か後はピカチュウ………そこで私はすっかり忘れていた重大なことに気が付いた

「あっ!」
「…っ!?」

思わずあげてしまった大きな声に、自分でも驚いて手で口をぱっと塞いだ。いや、言ってしまった後じゃ遅いのだけれど

「…ご、ごめんなさい…大事なことを思い出して…。あ、いやすみません…何もしないので、その刃物を下してください…。」

そう謝れば、此方に向けて握りなおした刃物を彼は警戒しながらも黙って下におろしてくれた


忘れていた訳じゃないんです
(やばい…ピカチュウ助けてなかった……)


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bkm