それは私の何よりも好きなこと
「コトリさん、おはようございまーす!」
「乱太郎くんにきり丸くん、しんべヱくんおはよう。元気だねぇ。」

太陽がサンサンと降り注ぐ旅日和の午後。門前の掃き掃除をしていれば、1年は組の良い子である3人組が外出届を持って元気一杯に駆け寄ってきた。それをきちんと受け取れば、しんべヱくんが2人の手を引いて早く早くと急かしている様だった。どうやら彼らの背中に括り付けてある風呂敷には、お弁当が入っているらしく今から3人でピクニックにでも行くんだろうか。羨ましいな

「じゃあ、コトリさん行ってきまーす!」
「はい、いってらっしゃい。気を付けて行ってくるんだよ。」
「はーい!」

仲良く肩を並べて駆け出した3人を笑顔で見送って、私は門前の掃き掃除を再開させた。しかし何故、私がこの慣れない掃き掃除なんてものをやって、学園の生徒たちから外出届を受け取っているのかと言うと、あれは2日前。この忍術学園へとやって来て、ピカチュウが学園長先生に電気ショックを浴びせた後。プスプスと黒焦げになりながらも、ピカチュウの可愛さに雷を打たれたような衝撃じゃ!なんて声をあげた学園長先生に、髭を生やしたダンディな先生が、比喩じゃなくて物理的に当たってます黒焦げです学園長。と、冷静にツッコミをいれたその後でのこと。どうもピカチュウをえらく気に入った学園長先生が、こんなに可愛い者に罪はない!と言って、森の中で怖い思いをさせてしまったお詫びに、好きなだけ学園にいても良いと仰ってくださったのだ。正直、攻撃をしてしまって謝らないといけないのは此方の方なんだけど、好意はありがたく受け取ろうということで私は宜しくお願いしますと頭を下げた。しかしやはりタダでおいてもらうのは、私の良心が酷く痛むのでこうしてお手伝いを買って出ることにしたのだ

「ルカリオー。」

私は腰に巻きつけたボールホルダーから、1つモンスターボールを取り外して宙へと放り投げた。一瞬の閃光と共に飛び出してきたルカリオは、お呼びですかと私の前でかしずいて見せた。あらやだ、イケメン

「ねぇ、ルカリオ。やっぱり此処は他のポケモンの波動は感じられない?」
「(感じられません。ポケモンではない別の生き物の波動は感じられますが、…やはり此処は別の世界と考えた方が無難かと…。)」
「だよねぇ…。」

ルカリオの言うとおりだった。此処にはポケモンはいない分、それに変わるかの様に見たことのない生き物が沢山いた。犬に猫。狼に鳥。熊に兎。ポケモンに似た姿をした生き物もいたけど、どうやらそれらは一まとめにして動物だと、モンスターボールを投げようとしたところを必死に土井先生に説明された

「別の世界かぁ…。今いちピンとこないんだよな…。」
「(しかし、これだけポケモンの存在がない場所となると…。)
「やっぱり、そうなるよねぇ…。」

私は小さく溜息を吐いた。だけどその心境は凄く複雑なものだった。勿論、私の世界には家族も友人も仲間もいる。あの世界でやり遂げたかったチャンピオンリーグ制覇っていう目標だってある。だから、私は帰らなくちゃいけないのだ。だけどそう思う反面、わくわくしてる自分がいた。まだ見たことのない世界。見たことのない生き物。知らない場所に新しい出会い。冒険の匂いが蔓延するこの世界に対する興味が、私の好奇心をそれで良いのかと突いてくるのだ。もっとこの世界のことを知りたいだろと

「(主、どちらにしろ帰り方が分からない今、此処に留まる他ないかと。)」
「そ、そうだよね。]
「(それに冒険好きの主のこと、きっとこのまま帰れば後悔するんじないですか。)」

確信めいたその言葉に、私はそれもそうだと頷いた。別に今すぐに帰ることはないじゃないか。もっとこの世界で沢山の出会いをして、それからでも遅くはない。どちらにせよ行き成り此方に来てしまったんだ。また急に帰れることもあるかもしれないんだし。それに私にはルカリオに皆も付いてるじゃないか。寂しいなんてことはない

「よし、そうと決まれば今はこの世界を楽しもう!」
「(私は主のそういう気持良い程に楽天的なところが、何よりも魅力的だと思いますよ。)」
「あれ?これ貶された?口説かれた?」
「(褒め言葉です。)」


それは私の何よりも好きなこと
(だって、いつまでも落ち込んでたら、わくわくなんて出来ないでしょ?)


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