私の大切な仲間たちです
「おほー!見つけたぜ!」
「あ、ハチくん。」

あれから門前の掃き掃除も終わり、次は何処のお手伝いに行こうかな。と校庭あたりをぶらぶらと歩いていれば、うねうねとした焦げ茶髪の少年と鷲色のボサボサ髪の少年が此方へと駆け寄ってきた。その中でも知っているハチくんの名前を口にすれば、彼は覚えてくれてたのかと嬉しそうにニッカりと笑った。だって忘れられる筈ないよ。プラズマ団と間違えてハチくんには、ルカリオに攻撃させてしまうという、なかなか衝撃的な出会いをしたんだから…

「あの説は、本当にごめんね。敵かと勘違いしちゃって…。」
「いいって。曲者と思って殺気だして近づいた俺も悪かったんだしよ。」
「そんな!私も勝手に学園の敷地内に入っちゃって、もう不法侵入も良いところっていうか!」
「んなことねえって。勝手に此処に連れてこられちまったんだろ?不可抗力って奴だろ。」
「いや、でも!」

「あのさ、もうそれくらいにしない?」

いやいや、私が俺がと繰り返していれば、うねうね髪の少年がにっこりとした笑みでハチくんの肩に手を置いていた。それに私はハっとして、何だか熱くなっちゃってごめんね。と謝った

「えっと、知ってると思うけど、先日から学園でお世話になっているコトリです。宜しくね。」
「俺は五年の尾浜勘右衛門。良かったら勘ちゃんって呼んでね。宜しく!」

にっこりとお互い握手を交わせば、彼はうずうずとした様にその期待に満ちた視線を向けてきた。それに、ん?何だろうと首を傾げたけど、そう言えば最初にハチくんに呼ばれてたっけ、と思って私は後ろにいる彼を振り返った

「そう言えばさっき、見つけたって言ってたけどもしかして探してた?」
「おう、ちょっとコトリにお願いがあってさ。」
「お願い?」

はて、何だろう。だけどどんな無茶なことだって彼に頭が上がらない私は、頑張って応えようと、なになに?と積極的に問いかけた。すると彼は、勘ちゃんと目を見合わせたかと思えば、2人揃って、パンっと両手を合わせて頭を下げた

「ポケモンに触らせてくれ!」
「お願い!」
「…ポケモン?」

あまりの意気込みっぷりに呆気にとられてしまったけど、必死に頭を下げる2人に私は、何だそんなことかと頬を緩めた

「勿論だよ。私の大切な仲間を2人に紹介するよ!」

そう言えば、2人は本当か!?って凄く嬉しそうに笑った。これだけ素直に喜んでもらえると、私としてもきっと仲間たちにとっても嬉しいことだろう。私は腰ベルトに付いたホルダーからモンスターボールを1つづつ取り外して、ポイと宙に放り投げた。途端にパカンという子気味良い音と、一瞬の閃光の内、2体のポケモンがそこから姿を現した

「ガゥッ!」
「タジャタジャーッ!」
「ウインディ、ツタージャ。右から竹谷八左ヱ門くんに尾浜勘右衛門くんだよ。はい、ご挨拶。」

パンと手を叩いて2匹に言えば、彼らは楽しそうに一声あげる。それに今まで固まっていた身体が漸く動き出したかの様に、わわわ、と勘ちゃんは目をキラキラさせて子供の様にはしゃいでいた

「わ、す、凄い!それにすっごい可愛い!かっこいい!わ、っ、わわ!」
「………っ、」

勘ちゃんに可愛いと言われて、満更でもない様なウインディとツタージャはくるりとその場を周って見せた。それに更に目を輝かす勘ちゃんに、どうしたのかハチくんはさっきからピクリとも動かない。だけどその目は驚きに満ちていて、口はぱくぱくと音にならない声を漏らしている

「…ハチくん?」

そんな彼を不思議に思って遠慮がちに声をかければ、彼はハっとした様に肩を震わせて何を思ったのか、次の瞬間「おほーーーーっ!」と歓喜に満ちた謎の奇声を発してみせた

「っハ、ハチくん!?」

何だ何だ!?と慌ててもう一度、名前を呼べば隣にいた筈のハチくんはいつの間に駆けて行ったのか、そのボサボサな鷲色髪をウインディの胸毛と一体化させる様にして、思いっきり抱きついているではないか。ハチくんはそのままガバリとウインディの顔を抱きしめ、高速でもふもふもふもふと頬ずりをしている。何これデジャブ。ヒクりと自分の口の端が震えたのが分かった。ハチくんもあれか、ポケモン大好きクラブ属性ってことか

ウインディはピカチュウみたいに驚いてうっかり攻撃しちゃうことは無いけど、その視線が「え、これ何?え?どうしたら良いの?」と私と抱きつくハチくんを行ったり来たりと慌てているのが何だかとても可愛かった

「…あーっと、…ハチね、生物委員会で委員長代理してるんだけど、相当な生き物好きなんだ…。」
「お、おう…。何か見てて凄い分かる…。」
「…だよね。」

若干、勘ちゃんと2人、引き気味で見ていれば、ハチくんのテンションは上がりに上がったのかひたすら、ウインディとツタージャにかまっている

「おほー!お前らすっげー可愛いな!本当もっふもっふ!おい、ツタージャもこっちこいよ!ってお前、何か三郎に似てんな!おほー!」
「ちょ、もうハチ落ち着いて!ウインディもツタージャも引いてるから!ぶっちゃけて言うと俺もコトリもドン引きしてるからやめてぇぇ!」

ギャーギャーと、ウインディとツタージャから引き離す様にハチくんを引っ張る勘ちゃんに苦笑した。ハチくんが此処までポケモンを興味を持ってくれるなんて、ハチくんに触られてびっくりしていたら彼らも、何だかんだで楽しそうに笑ってる。そんな彼らをちょいちょいと手招きすれば、2匹はすぐに私の元に寄ってきた

「ねぇ、ハチくん、勘ちゃん。良かったらウインディに乗ってみる?」
「いいのか!?」
「勿論。ウインディに乗るとね、すっごく気持ち良いんだよ!ね、ウインディも良いよね?」

腕の中に飛び込んできたツタージャをそのままに、くしゃりとウインディの頬を撫でれば任せろとばかりに逞しく吠えた

「やったー!はいはい!俺、一番!」
「な、おい!勘右衛門、俺が先だって!」
「やーだー!俺が先ーっ!」

やいやい順番争いをする2人を見ていると、自然と口元に笑みが浮かんだ。それが伝わったのか、ツタージャもウインディも、楽しそうに笑っている

「…素敵な場所だね。」

声に出せば、同意する様に2匹は頷いた。順番争いの言い合いからいつの間にか、あっち向いてほいの対決になった2人を横眼に、私はウインディとツタージャの頭を優しく撫でた


私の大切な仲間たちです
「あっちむいてほい!ほい!やったー!俺の勝ちー!」
「だーーっ!くっそぉぉ!」
「残念だったねハチ。ウインディの此処での初めて(初乗せ)は俺のものだ。」
「あぁぁぁ!ウインディイイイ!」
「それもこれも、守りきれなかったお前の力量不足だよ。」
「あぁぁあ!ちくしょぉぉ!」

「………ねぇ、何してるの?」


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