少年は嗤う
殺気を感じた。ピリっと肌を切り裂く程の痛い殺気だ。その殺気は、真っすぐに忍たま達にちやほやされている天女に向けられていた。普段こういった殺気には敏感であるはずの上級生達も、今や天女に浮かれていて気づきもしない。忍者経験の浅い僕にだって、すぐに気づく程の強い殺気なのに本当に情けないな

どうやら殺気の出所は六年生の善法寺伊作くんらしく、彼の隣りには五年の尾浜勘右衛門くんと空斗くんがいた。彼らに挟まれて笑う空斗くんは、どう見ても無理して笑っていた。天女が来てから、空斗くんは目に見えて元気が無くなっていったんだ。僕は、それがどうしても許せなかった。僕の大好きな大好きな空斗くんは、あの天女とかいう女のせいで悲しんでいるんだ

大切な仲間を奪われて

大好きな学園を穢されて

悲しんで毎日泣いている

だけど、空斗くんのかつての友人はそれすらも気付かない。尾浜くんだけが、まだ空斗くんの傍に残っているみたいだけど。正直、彼がいることは僕にとってとても好ましくないんだよね。でも空斗くんが1番苦しんでいる時に傍にいたのが彼だと聞いた。僕だって、学園長のお使いなんて行ってなかったらずっと彼の傍にいたのに

あぁ、悔しい悔しい悔しい……

だけど、空斗くんの傍にいるのが尾浜くんだけになったことで、僕は空斗くんに近づける様になった。今までは兵助くん達が、空斗くんの周りを固めて傍にも寄らせてもらえなかったから。彼らがあの不純物に惚れ込んで、空斗くんを捨てたから。そのお陰で今は好きなだけ僕は空斗くんの傍にいられるんだ

あぁ、なんて馬鹿なんだろう

なんて滑稽なんだろう

あんな空から落ちてきた不純物に惑わされ、本当に綺麗なものを手放すなんて

あぁ、なんて単純なんだろう

なんて愚かなんだろう

それでいて


なんて素晴らしいんだろう


少年は嗤う
(本当の天女様が誰かも知らないなんて)
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