ゲームスタート
あれから名前を呼ばれて私は廃校を飛び出して、息が切れるまで全速力で足を動かし、人気の無い草むらまで来てやっと足を止めた 。涙はすっかり乾ききってしまった。それでも震えは未だ止まらなくて、目を閉じれば屁怒絽くんの最後の姿が浮かんでくる

こんなの狂ってる…本当だったら今頃ずっと楽しみにしていた修学旅行で、いつもみたいに皆で笑って騒いで喧嘩して…こんなのあまりにも残酷すぎるよ…


「期間は1日だけだ。生きて帰りたかったら、仲間でも何でも殺すことだな。」


淡々と話す銀八先生に対して初めて恐怖を感じた瞬間だった。銀八先生は白衣のポケットに手を突っ込んたままで、きっとそのポケットの中では引き金に手を添えていたんだろう


「殺さなかったら殺されるだけだからな。」


それでも殺したくなんてない、皆は大切な仲間だから。そうだ。3−Zの皆だってきっとそう思っているはずだ。3−Zに仲間を裏切る人なんているわけないから。そう信じてる、…信じていたかったのに



「よぉ、梢じゃねぇか。」
「……た、高杉…くん。」


気配も何も感じなかった。それは私がただ単に気付かなかっただけか、それとも高杉くんが故意に気配を消していたのか

…だったらそれは何のため?


「後ろガラ空き、そんな無防備だといつ殺されてもおかしくねぇぜ?」
「…そ、そんなこと…。」
「どうせお前のことだから3−Zの連中は乗らねぇとか思ってんだろ?」
「……………。」
「とんだ甘ったれだな。」
「殺らねぇと殺られる。此処ではそれだけだぜ。」


高杉くんは右手に持っていたものを軽く横に薙ぎ払う。月の光に照らされた銀色のそれはギラギラと輝いていて、私は初めてそれが日本刀だと認識した。それがただの刀ならまだ良かったのに、それにはべっとりと誰かの赤がこびり付いていた


「……そ、の血……。」
「あぁ、これか?これは、阿音のだよ。」
「…え、…?」


それじゃぁ、阿音は、死ん…だの?そんな、どうして死んだの?何で高杉くんに殺されたの?今日だってバスの中でトランプしたり、一緒にお菓子を食べたり、あんなにも楽しそうに笑っていたのに。何で死んでしまったの…?困惑する私を見降ろして高杉くんは至極楽しそうに笑みを浮かべていた

………あぁ、そうか。これはゲームだから。彼はもう楽しんでしまっているんだ、このゲームを…そして次に殺されるのは…


「……私も、殺すの…?」
「それがこのゲームのルールだからな。」
「…死にたくない…。」
「殺したくねぇ、死にたくねぇ、とんだ我が儘だな。」


高杉くんは俯く私を見降ろし、刀を振り上げた。唯一の明かりだった月は彼の背中にすっかり姿を隠してしまって、私にはもう何も見えなかった。あぁ、死んじゃうんだ私…心残り、たくさんあったなぁ…ゴメンね皆…先に逝って待ってるから…


ザクっと肉が切れる音が耳に届いた。だけど来るはずの痛みが来ないことに不思議を感じて、私はそっと目を開いた


「…っく、」


そこには歪んだ笑みを浮かべる高杉くんはいなくて、代わりに左腕から血を流す土方くんの背中が広がっていた


「土方ァッ!邪魔すんじゃねぇよ!」
「…ひ、じかたくん何で…。」
「逃げろ梢っ!!」
「…そ、そんな、嫌だよ、土方くんを置いてなんて行けない!」
「お前がいると邪魔なんだよっ!!とっとと行け!!」


土方くんはいつも沖田くんに怒鳴る時よりも、幾分も迫力を込めて声を張り上げた。きっとそこには焦りも含まれていたんだと思う。でも何で土方くんは自分の腕を犠牲にしてまで私を助けたの?分からない、だけど…ただ分かるのは1つだけ。きっと彼はこのゲームには乗らない。だったら私は


「……土方くん、絶対に、戻ってきてねっ!」


私は後ろ髪引かれる思いを感じながらも、此処に私がいたんじゃ絶対に足手まといになる。そう思って急いでリュックを担ぎ林の中へと駆け込んだ


「っち、とんだ邪魔が入ったぜ。」


梢の後ろ姿を見送りながら、俺は高杉の野郎に一瞬の隙も与えねぇ様に身構えた。刀を手にする高杉相手に丸腰なんざ、確実に俺の方が歩が悪ィ…どうするかと策を練っていると高杉は「興冷めだ。」と溜息をつく


「今回だけは見逃してやる。」
「…どういう魂胆だ?」
「別にただの気まぐれだ。だが、次に俺に会った時は覚悟しとくことだな。」


高杉は刀一つを持って、梢の走って行った方向とは逆の林に足を進めていった


「……はぁ、」


高杉の姿がようやく見えなくなって、俺は張り詰めていた緊張の糸が一気に解けるのを感じた。左腕の傷は浅くは無いものの、幸い重症と言う程でもなく俺はタオルできつく止血をした

俺はぜってぇこんな腐ったゲームには参加しねぇよ。俺が守れるもんなんてたかが知れてるかもしんねぇ…でも足掻いてやるよ最後まで


「……行くか。」


長居は命取り。いつ此処に高杉みたいな野郎が来るか分からねぇ。俺は荷物を肩に掛け、梢が走って行った方向に歩いていった


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(夢なら覚めて欲しいのに)
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