腹ぐ……いえなんでもないです
「梢、とりあえず土下座して。」
「あれ、これデジャヴ?」

せめて食堂なんて人の目がたくさんある場所では止めてください。…あれ、そういう問題じゃないよね?あぁ、もう最近の私はすっかりおかしくなっています


それから何とか土下座を回避した私は、何故か雷蔵くんを含む5年生の皆と朝ご飯を食べていた。わけなんだけど、隣の席には雷蔵くん。何だかドキドキして、食事が進まないんですけど…

「椎名さん、豆腐いらないなら頂戴。」
「とか言いながらもう、お箸つけてるよねそれ。」

ざっくりと久々知くんのお箸が刺さった私のお豆腐。応えを返す頃にはもう久々知くんのお腹の中へ消えていった。食後の楽しみにしてたのに…うーっと妬ましい思いで、空になったお皿を見ていると「はい。」と、お盆の上に新しい豆腐が乗せられた

「僕の豆腐食べて良いよ。」
「え、雷蔵くんいいの?………何が目的で?」
「何も目的なんて無いよ。」

雷蔵くんが目的無しで、私に物を与えてくれるなんて、怪しいんですけど。じーっと豆腐とにこにこ笑う雷蔵くんを見比べていると、横からまたしても豆腐小僧

「椎名さん、いらないなら私に頂戴。」

目の前に座っている久々知くんが、またもや私が貰った豆腐へと箸を伸ばしてきた

「うあ、もう駄目!これは私が貰ったの!」
「兵助はもう2つも食べただろーが。」

そう竹谷くんに言われれば、久々知くんはしぶしぶと引き下がった。目線は未だに未練いっぱいといった感じだけど。私は久々知くんから死守した豆腐と雷蔵くんをまたもや見比べて

「じゃあ、いただきます。」

遠慮なしに頂くことにした。本人が裏が無いと言ってるんだから、たまには信用してみても良いんじゃないか。何だかんだでコイツも良いとこあるって分かったしね

「ごちそうさまでした!」
「梢、美味しかった?」
「うん、美味しかったよ。ありがとう。」

そう返せば、やっぱり僕も食べたかったなと残念そうな顔を1つ

「…え、そうなの?…ゴメンね全部食べちゃって。」
「いいよ、梢から一口貰うから。」
「?でももう食べ終わ…っっ!?!?」

ぺろっ

豆腐はもう今ので最後だから、残ってないよ。そう言おうと思った言葉は、最後まで発せられなくて、代わりに出るのは声にならない声だけ。目の前いっぱいに広がった雷蔵くんの悪戯顔に、頭は真っ白で、何故だか早い勢いで心臓がドキドキ音をたてる。え、何でこんなに雷蔵くんが近いんだ?

「やっぱり美味しいね。」
「…へ、……えっ…あ、!?」

周りの忍たまやくのたまの騒ぎたてる声で、漸く私の思考は現実へと戻ってきた。そして、だんだんとこの目の前の男に何をされたのかと分かっていく

「…な、なに…して…。」
「何って口の端についてた豆腐を貰っただけだよ。」
「…………っ!!」

この男は平然と!!ってかもしかしなくても、これが目的だったのか!?文句の1つでも言って、頬をひっ叩いてやろう。そう言って手を振りあげれば、その手さえも握り籠められて、今度は唇にちゅっと口付けられた

「…っ!!」
「これは接吻かな。あはは。梢、涙目で真っ赤になっちゃって可愛い。」
「…な、なななな!?」

あぁ、少しでも良い奴かもなんて思った私がバカだった。コイツは変態だ腹黒だ大魔王だ!

「やっぱり、雷蔵くんなんて大っ嫌いだ!!」
「そう?僕は梢のことが大好きだよ。」
「…!?…うー、煩い煩い煩いー!こんの…


腹ぐ……いえなんでもないです
「何?聞こえなかったんだけど。」
「…い、いえ、なんでもないですごめんなさい…。」

でも、それでもそんなコイツも好きだなんて
本当に悔しい!!

「てかその前にお前らと一緒にいる俺たちの身にもなれよな…」
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