それ全く冗談になってないから!
私は雷蔵くんの前で、泣いたりなんかしたくなかった。だけど今、私が雷蔵くんの部屋で雷蔵くんの前でべそべそ泣いているのは、いつもよりも雷蔵くんが優しいせいなんだ


私は、あれから五年生たちを殴って片づけてしまった雷蔵くんに引きずられ、気付けば雷蔵くんの部屋で正座をしていた。正面には彼も同じように座っていて、何だか空気が重く感じた

「えぐっ、…ひっく…っく。」

部屋には私の押し殺しきれない嗚咽だけが響いて、酷く恥ずかしくて居心地が悪かった。すぐにでも自分の部屋に戻って、布団にくるまってしまいたいのに、それをさせないのは、私の手首をしっかりと握っている雷蔵くんの手

「…梢。」

不意にぽつりと雷蔵くんが私の名前を呼んだ。その声はとても優しくて、壊れ物を扱うかの様に柔らかかった。だけど私はその声にも視線はあげないで、ただ自分の膝を見つめてべそべそ泣いていた

「梢。」

今度はそんな私の名前を雷蔵くんは、はっきりと口にした。その声に私はしぶしぶと、涙でいっぱいに濡れた顔を上げようとしたけど、雷蔵くんは私の頭にポンと手を置いて、それを遮った

「そのままで良いから聞いて。」

そう言った雷蔵くんに、私はこくりと頷いた

「僕さ、今までずっと梢にいじわるばっかりしてきたよね。けどね、僕は梢が嫌いだからそんなことするんじゃないんだよ?梢のことが好きだから、いじわるしてしまうんだ。」

私は下を向いたままだから今、雷蔵くんがどんな顔をしてるかなんて分からない。だけどきっとそこには、いつもの雷蔵くんはいないんだろうって思った

「だから、さっき梢を見つけた時に心臓が止まってしまうかと思った。怖くて、腹立たしくて、辛くて、痛くていつもの僕で、いられなくなる様な気さえしたんだ。」

「お願いだから、僕の目の届かない範囲には行かないで。ずっと此処に居て欲しいんだ。」

そう言った雷蔵くんの手は少しだけ震えていて、本当に彼は心から心配してくれたんだと感じた。私は両の手でその手を握り締めて、雷蔵くんの顔を見上げた

「助けてくれて本当にありがとう。私ね、雷蔵くんが助けに来てくれて本当に嬉しかったの。凄く安心したし、見つけてくれて嬉しかった。本当に、ありがとう雷蔵くん。実はね、何だかんだで私も雷蔵くんのこと大好きだよ。」

そう言えば、雷蔵くんは一瞬微妙な顔をしたけど、次にはにっこりと笑みを作ってくれた

「…ありがとう。」

それから涙もすっかりと乾いてしまって、いつもの元気もいっぱい出てくる様になった。そろそろ部屋にでも戻ろうかと思ったけど、立ちあがろうと思った私の腕を、雷蔵くんに掴まれて座らさせられた

「梢はこれから用事でもあるの?」
「あるよ。部屋でまったりするの。」
「それ、用事って言わないよね。」

「だったら…。」

そう言った雷蔵くんは至極満面の笑みを浮かべる。この笑顔も何だか嫌な予感だ。私は返事を聞く前に、部屋から逃げ出そうと立ち上がったんだけど、またもやその腕をがしっと掴まれて、強制的に元の位置に座らさせられた

「…雷蔵、くん?」
「梢、今から暇なんでしょ?」

だとしたら何なんだ。そんな私の心情を知ってか知らずか、にっこり笑みを浮かべる雷蔵くんは言葉を続けた

「じゃあ、今から一緒にまぐわろうか!」
「何で!?」


それ全く冗談になってないから!
「いや、消毒的な意味を込めてね。」
「消毒にならないし!」

ああ、もうやっぱり嫌いかもしれない!!このやろう!!
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