気温が下がったのは気のせいかな
今日は忍術学園がお休みの日です。私の休日と言えば専らお部屋で、のんびりまったりごろごろすること。じゃあ何で今、私が町に来ているかって?それは学園長のお使いだからです。あぁ、最近の私は本当についていない…


「お団子にお煎餅に和菓子…これで全部だよね。」

学園長から事付かったお買い物も全て終わった。私は学園長から余ったお金をお駄賃として貰っていたから、そのお金で少しお茶でもしようと思い、近くのお団子屋さんを目指して歩くことにした。そう言えば此処から少し行った所に、美味しいって人気のあるお団子屋さんがあったはず。くのいちの友達が言っていた場所を思い出しながら、右に左にいろいろ歩いていると、ふいに後から男の子の声で名前を呼ばれた

「あ!椎名さん!」
「…へ?えーっと…確か五年は組の…。」

何度か食堂で見たことがある顔なんだけど、名前までは知らない子。だけど彼はそんなことも気にせず、焦った様に言葉を続けた

「今、ちょっと時間あるかな!?」
「どうしたの?」
「ちょっと大変なことになって、手を貸して欲しいんだ!」

彼は本当に焦っているのか、早く早くと私の空いている方の手を取って走り出そうとする。私もそんな彼に押されて、付いていく様に足を速めた

「何かあったの!?」
「そうなんだ!俺たちじゃ、どうし様もなくて助けて欲しいんだ!」
「分かった!」

本当に大変なことが有ったのか。私は急いで行かなくちゃという責任感だけで、彼の後を追った


着いた場所は長屋が連なっている裏通り。人通りがなく、日も当たらないこの場所は何だかじめじめとした空気に纏われていた。だけどその奥に見える2人の人影。確か彼らも五年は組の忍たまだったはずだ

「はぁっ、はぁっ、それで…どうしたの?」

全力疾走の末、私の息は絶え絶え。それに「大丈夫?」と言いながら背中を擦ってくれた彼に私はお礼を言った

「それで大変なことってどうしたの?」

此処に来た目的はそれだ。何かあったのなら早急に対応しなければならないだろう。だけど彼らと言ったらにやにやとただ笑うだけ

「そのことなんだけどね、もう良いんだ。」
「そうそう。そもそも大変なことなんて無いんだしね。」
「俺たちただ、椎名さんと遊びたかっただけなんだし。」
「…え、どういう、意味…?」

私はそう聞きながらも、何だか嫌な予感がするのを感じた。自然と後退する足。じゃりっとした音が耳に届いた瞬間、私は肩を掴まれ地面に引き倒された

「俺たち、ずっと椎名さんと遊びたかったんだよ?」
「だけど、いつも椎名さんの周りには不破がいるんだもん。」
「でも今日は椎名さんが1人。こんな機会ってそうそう無いだろ?」

血の気が引くってこういうことを言うんだと思う。指先が冷たくなって、ぶるりと身体が震えた。だけど私は、5年間もくのいちとしての教育を受けてきたのだ。ただ黙ってヤられるなんて、真っ平ごめんだ。私は、裾に忍ばせていた苦無を引っ掴もうと、左の着物の裾に手を突っ込んだ。しかしその手は、苦無を掴む前に男の手によって遮られ、そのまま左の手と一緒に地面に縫いつけられた

「抵抗なんてしないでよ。寂しいでしょ?」
「はな、せっ!」
「っぐ!?」

手が出せないなら足を出すまで。私はまだ自由な足を使って、男の脇腹目がけて蹴りを入れた。途端に手は自由になるが、残りの2人に今度は手も足も抑え込まれまた動きを封じられる

「こんのくそ女が!」
「…っきゃ!」

頬に走る鋭い痛みに、じんわりと目尻に涙が浮かぶのを感じた。頬を叩かれた衝撃で口の中が切れたのか、口内からは鉄の味がした

「黙ってりゃ、手荒なことしねえのに。」
「お前ら、しっかり押さえとけよ!」
「ああ。」

そう言いながら、彼はまた遠慮も無しに私の上に跨り、着物の裾から手を差し入れる

「………っ!?」

気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い
首に舌を這わせられる感触に吐き気がする。太腿を撫でる手が汚らわしい

「椎名さん目に涙いっぱい溜めちゃって、可愛いなー。」
「おい、早く変わってくれよな!」

げらげらと笑う声が耳障りだ。私は、ぎゅっと目を瞑ってこの忌まわしい行為にただ耐えた

本当に今日は、ついてない。こんなことなら、学園長のお使いなんて断れば良かったんだ。町になんて来なかったらこんな事にならなかった。男の言うことを疑い、ついて来なかったらこんな事にならなかった。学園にいて、いつもみたいに雷蔵くんが傍にいればこんな事にならなかった

遂に涙が頬を伝ったのか、頬を伝う生温かい温度に、私はゆるりと瞼を持ちあげた

「………何…で?」

だけど、それは涙なんて透明なものじゃなくて

赤い赤い血


「お前ら、こんな事して覚悟は出来てるんだろうね?」


気温が下がったのは気のせいかな
(こんな雷蔵くん、私は見たことがなかった)
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