斎藤 長編 | ナノ


『一くん!!付き合って!』


風紀委員の三人で集まった昼休みのこと
そう告げると一くんが持っていた箸に挟まれていた卵焼きが落ちた。
勿体無い

「なまえ、なんの冗談だ?」

『へ?』

「いや、付き合ってなど..だな、薫もいる前でいう冗談ではないだろう」


『冗談じゃないよ?』

何故か一くんの目元は朱く染まっていた

薫はこちらを凝視しているし何なんだろう?

「...なまえ」
『ん?』

「俺で、いいのか?」

一くん、そんな真剣な目で見てきても...


『一くんじゃないと無理だよ』

「なっ...」
『だって、一くん位でしょ?数学真面目に聞いてるの』

そう言って鞄から数学の教科書とテキストを取り出すと一くんと薫がぽかん、とした表情をしていた

『ん?どうしたの?』

「...斎藤、今日だけはお前に同情するよ」

「...」

『え?』


「..もういい、どこがわからないんだ?」

深いため息をつく一くんは理解できないけど教えてくれるならまぁ、いいや

『こっからここ!』

「...つまり、今度の試験範囲全てということだな」

『だって、永倉先生分かんないんだもん..』

「あんたの場合総司とふざけあったり、授業中居眠りをしているのも原因だ」

『うっ...でもとりあえず今回のテスト赤点は取れないの!!』

今回のテストで赤点をとれば合宿に、参加できない
これは毎年恒例で。
この時期のテストだけは剣道部の平均点が上がったりしている

「致し方あるまい..あんたの勉強に付き合おう」

『ありがと!!一くん大好きっ』

救世主斎藤様様だ!!

「..それで、どこで勉強をするんだ?今日は確か5時限目で終了後学校自体が閉まるはずだが」

『あ...』

すっかり忘れていた。

そう言えば今朝左之先生がそんなことを言っていた気がする

『あ、私の家があるよ!学校から近いし!』

そう提案すると薫と一くんが同時に目を見開いた

「みょうじってさ、常に警戒心無いよね」

薫に呆れるようにため息をつかれて少しショックだったけど

それより一くんが黙り込んでしまった

『は、一くーん...?』
「...んたは..」

『ん?』

「あんたは、警戒心が無さすぎる」

『..うん、さっき薫にも言われた』

真顔で吐き出してくれたこの美少年は薫の言葉聞いてなかったのかな

「だが、しかし、俺の家は少し遠い故勉強する所ははそこしかない、か」

一くんは本日2回目のため息をつくと
それなら、放課後にお邪魔しようと頷いてくれた

______________


「なまえちゃん、ご機嫌だね?」

教室に戻り席に着くと総司がむくっと起き上がってじぃ、と見てきた

『うん、今日一くんに、勉強見てもらうんだ』

「へぇ、二人きりで? 」
『ん?うん』

総司の口端が釣り上がるのを見て寒気を覚えた

あの表情は悪いことを考えている時の顔だ
一年間つちかってきた本能が危険だと知らせる。

「ねぇ、なまえちゃん。僕もその勉強会行くよ 」
『...は?』
「でも、なまえちゃんの家じゃなくてほかの場所で勉強会しようよ。あ、一くんには5時間目終わるまで内緒、ね?」


そうにんまりと笑う総司の顔を見て私は苦笑いすら浮かべることができなかった

五時間めのだらたらとした英語の授業が終わると同時に総司は文句あり気な顔をしている
一くんと私の二人を連れて ある場所にたどり着いた


「なまえちゃん、鍵早くあけてよ」
『総司、ここは危険だよ...』
「今すぐ帰るぞ」
「何言ってるの?ここまで来て帰るはないでしょ?」

総司がにこにことドアノブに手をかけているのはトシ兄のマンションで
一くんと私は硬直してしまった

仕方ない、仕方ない事なのだ。うん。
たとえトシ兄が怒っても私と一くんに非はない。

多分。

鍵を開けて玄関にはいると総司が楽しそうに物色し始めた

もう総司は放置して2人で数学を始めることにした

一くんの教え方は上手いと定評でよくお世話になっている(特に数学)

「・・これくらいできれば問題はないだろう」
一くんがそういった頃には外が暗くなっていた
時計を見ると3時から始まった勉強会は四時間続いていたらしい

ちょうど総司がどこからか満足そうに微笑みながら現れた

「そろそろお暇するぞ。俺らがいては土方先生に迷惑がかかる」

「えー。もうちょっといようよ、ね?なまえちゃん」

『いや、今すぐ帰るよ総司』

そうやって総司の腕をひっぱると玄関が開く音がした

これは、非常にやばい事態だ
いつもはもっと遅い時間に帰ってくる筈なのに。

「・・・斎藤?なまえに沖田、か?」

「ッ・・・土方先生」
「お邪魔してまーす土方先生 」

その時のトシ兄の顔は今まで見た中で一番疲れた顔をしていたことは忘れるわけもない


勉強会。

(てめぇらなんでここにいやがる?!)
(なんでって、もちろん土方先生の例の原本を拝借するためです)
(あぁ?沖田てめぇ...)
(一くん、帰ろっか)
(あぁ...)
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