斎藤 長編 | ナノ


『ねぇ!山と海どっちがいい?』


...あぁ、もうそんな季節か

ため息をついて無視をすると馬鹿やら鬼畜やらドSやら吐かれた

もう慣れたしどうでもいいんだけどこの子本当懲りないよね

昼休みに屋上に集まっていた剣道部メンバーに声をかけると

平助が目を輝かせて

「海海海!!ぜってー海がいい!!」

「海、ねぇ...」
「海、か...」

『おっけー、海に一票ねー』

目を輝かせる平助君とは違ってふむ、と考える一くんと苦々しい顔をしてる僕を見て千鶴ちゃんはきょとんとしていた

「沖田先輩と斎藤先輩は海、お嫌いなんですか?」

「あぁ、千鶴ちゃんたちは知らないよね。地獄合宿」

"地獄合宿"
この呼び方が嫌いな一くんは眉間に皺作ってたけど
剣道部間だけじゃなくて薄桜生の間でも有名なほどハードなんだよね

「海になったら砂場ダッシュとか砂場で簡易試合とかかな?なまえちゃん」

『あはは、まぁそこはトシ兄がきめるから、さ』

「ねぇ、土方先生に言っておいてよ。去年みたいにハードにしたらアレ、ばら撒きますよって。」

去年の合宿なんて、時間が分刻みで僕にとっては地獄だったよ、本当に。

「総司。次の主将候補が顧問の先生にそんな脅しを吐いてどうするんだ..」

一くんにはぁ。とため息をつかれるのももう慣れちゃった。

飲みかけていた苺オレを飲んでいると意見がまとまったみたいで

『夏休み前が山で夏休み中が海ね』

にこにこと告げられた残酷すぎるスケジュールを聞いて思わず顔をしかめた

「僕、過労死しちゃうかも」

「は?!そんなにきついのかよ?」

ぼそっとつぶやいた一言に
不安気にこっちを見始めた平助が面白くて

「平助なんてすぐ体力使い切るかもね、厳しすぎて」

「なっ...?!そんなに厳しいのか?」

『はい、そこ嘘吹き込まない、それにまだ本決まりではないし。』

声のした上を見ると
なまえちゃんが呆れた顔をしていた

『トシ兄にはなるべく厳しくしないように言っておくから、ね?』

「さすが、話がわかるよね」

土方先生に見習わせてやりたいよ

「何が話がわかるって言うんだ?」

『え?!トシ兄っ』

「あれ?土方先生何の用ですか?わざわざ屋上まで来てなまえちゃんのストーカーですか?」

「沖田、てめぇは入学した頃から一々変わんねぇな」
青筋をたてながらためいきついちゃってさ
相変わらずだよね

『あ、トシ兄今年の合宿さ!!』

反論しようと口を開くとそれを遮るように
なまえちゃんが口を開いた

この子空気だけは読めるよね

一くんが視線で殺気送ってくるしここは大人しくしていることにした


『...ってことなんだけど!!』

「このスケジュールだと予算的に、な」

『え、やっぱ無理?』

「え、海無理なのか?!」

「今年は部活に充てられる予算が減ってよ。合宿も夏休み前の一回だけにすることにさっき決まったんだよ」

「あははっ、僕にとっては嬉しい事だなぁ」
「総司にとっては、な」

「お前らにスケジュール組めって言った手前すまねぇが今年は学校で合宿になると思うからよ」

『はーい!』
「わりぃな」

そうやってなまえちゃんの頭撫でる土方先生の顔は緩んでて

本当あの人なまえちゃんには甘いよね

最初はなまえちゃんのこと狙ってるのかと思ったけど観察してたら普通に妹的な存在として可愛がってるみたいだし

けどさ、

僕のとなりでそんな顔しないでよ一くん

土方先生となまえちゃんが楽しそうにしてる度に顔をかすかに歪めてさ
切なそうにしてさ

本当は今すぐ割り込みに行きたいって顔。

本当、一くんって分かり易いよね

まぁ、人のことは言えないのかな
僕と千の間になにかあること皆に察されて
気遣わせてるんだし


僕は一くんとその少し後ろでこちらを見ている千を盗み見て飲み干した苺オレのパックを潰した


ある初夏の日。

( 一くんも僕も馬鹿だよね )
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