斎藤 長編 | ナノ


事情を話し終えると
一くんの眉間に微かに皺がよってることが見て取れた

「あんたたちは..」
『ちがうよ?!すべての原因は永倉先生だよ?! 』
もうこうとなったら永倉先生に責任丸投げだ。
ごめんね先生。
でも一くんの小言はある意味トシ兄よりめんどくさいんだ。

「元はといえば、あんたが学校で土方先生に抱きつく故に起きた問題だろうなまえ。」

『...その通りでございます斎藤様様...』


「総司も、事情を知っているのであるから二人をフォローすべきだろう。」

さっきからにやにやと怪しげな総司に一瞥を置くと
そろそろ2限目が始まると呟いて
一くんは私たちに背を向けた。

「本当、素直じゃないなぁ...一くん」

そう呟く総司の声も一くんの耳には届かなかったみたいだ。


教室に入るともう既に一くんは涼しい顔をして席に座っていて

一くんの隣の私の席に着くと親友であり後ろの席である千がいつもの笑みを浮かべながら話しかけてきた。

「おはよ、なまえ。災難だったみたいね?」

『千ー....もう本当笑い事じゃないよー』

一昨年まで男子校だったという理由からか
この学年には女学生は私と千の二人だけで

勇さん..この薄桜学園の学園長とトシ兄の計らいによって
千と私は二年続けて同じクラスなのだ
それに加えて同じ剣道部のマネージャーだから常に一緒に行動している


千は明るくて可愛くてそれでもっていいとこのお嬢様..らしくて
なんでこんな学校に入学してきたのかは謎だけど
なんとなく察してみるに

千の隣の席でつまらなさそうに寝ている男に原因があるんじゃないかな、と思う。

さっきまで可笑しそうに笑っていた顔は見えなくなっていて
明らかに次の授業を受ける気は無さそうだ

『総司ー、トシ兄に怒られるよー。次の授業古典だよー。』

そう声をかけるけど反応はない


もうこうなった時の総司は駄目だ

トシ兄の雷が落ちるまでこいつはおきないつもりだ。
少しトシ兄に同情をして千を見ると

切なそうな表情をした千の顔。

一年の時から総司を見る千の顔はいつもそんな表情で
総司はわざとらしく感じるほどに千を見ようとはしない

何があったかは、知らないけど仲直りして欲しい。

そんなことを考えていると千の口がゆっくりと開いた


「あ、そう言えばね?なまえ」

『ひゃいっ!』

「ぷっ...なによその返事」

間の抜けた返事をしてしまうと千には笑われるし一くんには呆れられた顔をされるし

穴があるならなんちゃらってやつだ、うん。

「土方先生が部長とわたし達二人とで合宿のスケジュールの計画考えておけって。」

『あ、もうそんな時期かー..』

薄桜学園剣道部の合宿は
大きな大会がある秋に備えて
夏休み前に1回、夏休み中に1回
それと冬に一回ある。

毎回鬼の土方顧問が鬼畜なスケジュールをたてるから去年は合宿中に何人か倒れたくらい。


「今年は何人倒れるのかしらね」

『んー..5人は確実かなー..あ!一くん倒れるなら今いっておいてね!』

「..合宿で倒れたのは普段の練習を怠る様な先輩方のみであった。土方先生は普段から鍛錬を怠なければ倒れぬようなスケジュールをお組みになっている。故に俺は倒れる予定はない。」

「確かに去年卒業された先輩方の中には多かったわよね、練習しない人。」

『そう言えばトシ兄それと総司でストレス溜まったせいか合宿後食べれなくなってたから食事苦労したんだよなー』

「...なまえ?土方先生の家に行ってご飯作ってるの?」

気が付けば一くんと千がじぃっとこっちを見ている。

『....?うん。いとこだし。トシ兄一人だと食べないし』

「ねぇ、斎藤くん...いとこ同士って恋愛OKよね?」
「あぁ、まぁ...な」

『..は?』
「ねぇ、なまえ。あんたやっぱり土方先生のこと...」
『え、待って?千。トシ兄はトシ兄だよ?』

千は勘違いしてがっついてきて怖いし
一くんはじっと見てるし
総司は...肩震えてる。起きてるんじゃん!!

「なーんだ。面白くない」
ふいっと自分の席に戻って
興味無さそうに外を見始めた千

総司もふるえていた肩はもう動かなくて

前を向こうとすると視線を感じた方を見れば一くんと目が合った。

「なまえ..あんたは、」

「席に着け。授業始めるぞ 」


一くんの言葉を遮った声の主に目を向けるとトシ兄で

目線を一くんに戻すと少し切なそうな目をしながらなんでもない、と呟かれた


気づけない
まま


(総司に雷が落ちるまであと15秒 )
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