斎藤 長編 | ナノ


「ねぇ、25日さ剣道場でパーティーしようよ」

それは何日か前に言った総司の一言だった。丸い形をしたチョコレートを口に入れながらつまらなそうに頬杖をついて俺の前の席の者の椅子に逆側に座り前の席の者がこちらをチラチラと見ていることに気づかないのだろうか?

「何かあるのか?」

「・・・ねぇ、何の日か知らないの?」

ため息をついて再度チョコレートを口に放り込んだ総司は前の席に置いてあったスケジュール帳を勝手に拝借して25日を指し示す。前の席の者がハラハラとこちらを見ているが大丈夫なのだろうか?

「・・・嗚呼、」

「はじめくんなまえちゃんとそんな話にならなかったの?」

全くならなかった、と零れた言葉に総司が再度ため息をついたのは言うまでもない。

「なまえちゃんさ、楽しみにしてるんだよねクリスマスパーティ。」

「・・・そうか」

「はじめくんが来ればもっと喜ぶと思うんだけど」

スケジュール帳をパタンと閉じた総司の顔にはもう答えは決まっているでしょう?と言いたそうにしていて、狙っていたのかと気づくには時間はかからなかった。俺はとことんなまえに弱い。

「俺も参加する」

そう告げると総司は目を三日月型に細め最後のチョコレートのひとつを口に放り込んだのだった。

『はじめくんはじめくん』

なまえがそうやって現れたのは次の日の古典が終わったあとの事だった。
前の席の者の椅子を借りて座り四角形のチョコレートを口に入れていた。・・・昨日の誰かを彷彿とさせるのは気のせいだろうか?

「どうしたなまえ。 」

『クリスマスパーティーに参加してくれるって本当?』

じぃ、と黒目がちの目でこちらを見つめてくるなまえからは何の表情も読み取ることが出来なかったが俺が静かに頷くとなまえはぱぁ、と嬉しそうな表情を浮かべる。四角形のチョコレートが入った長方形の箱を軽く握りつぶしているが大丈夫なのだろうか。

『昨日急に決まったことだったから参加出来る人すくないかなって思っちゃってさ』


えへへ、と聞こえてきそうな笑みを浮かべたなまえはチョコレートを口に放り込み箱を丸めると携帯を取り出してなにかを打ち始めた。

『よっし、そろそろ来るかな!』

「・・・・誰がだ?」

『へへへー!』

自慢そうにピースサインを作ったなまえをみていいようにはならないと今までの経験上察した時に廊下から大きな足音が聞こえる。

「なまえ何だこのメールは!!!!」

『あ、トシ兄ー!これでクリスマス会参加しないのトシ兄だけになったよ!』

「知るか!!原田も永倉も俺も仕事があるんだよ!!!」

『2人とも参加してくれるって言ったけどね』

「チッ・・・あいつら覚えときやがれ」

それを肯定と受け取ったのかなまえは満足そうに微笑んだのだった。


「ねぇはじめくん。24日、なまえちゃんと会うんでしょ?」

「なにゆえ」

珍しい事に昼休憩に雪村、千、なまえがいない中総司がこことぞばかりにニヤニヤと質問を投げかけてきた。

「え、はじめくんなまえとデートしないの?!」

「・・・平助は雪村と出かけるのか?」

その問いかけに照れくさそうに「誘ったら喜んでくれたぜ」と笑う。「幸せそうだね 」なんてその様子を見て総司はさほど興味が無さそうに購買のパンに齧り付いたのだった。

「大体はじめくんが誘わなくてもなまえちゃんが誘いそうなのに。」

そう呟いた総司の言葉を無視して俺は24日のことを考えたのだった。

思案。

(数日後、俺は固まるハメになる。)
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