斎藤 長編 | ナノ


「なるほどね。」

冬の寒い中屋上に集まったいつものメンバーで、その空気はいつもと違って少し重苦しい

自販機で買ったホットココアを総司に奪われたことを除けば何事もない筈なのに重苦しいのには訳があった。

「普通、いとこの彼氏反対するもんなのか?」

「しかも相手ははじめくんなのにね」

「・・しっかりと話をすれば土方先生も、理解してくださるはずだ。」

「でも話してないんでしょ?」

『・・・話しならしたんだよ』

相手を伏せて、ならだけど。


熱が下がって少したった頃珍しく私の家に来たトシ兄に少し聞いてみた

「私に彼氏ができたと言ったらどうする?」と。
特に深い意味も無かったし単に興味本位の質問だったのにトシ兄の表情は一変して険しいものとなったのだ。

「どこのどいつだ?!」

『ちょ、トシ兄もしもの話だから!!』

「そんな相手もいねぇのにそんな話するタイプじゃねぇだろ!!」

『なっ・・・・そんなことないもん!!』

「なまえ」

『あ!コーヒー!コーヒーいれてくるね!!』

これはやばい。そう感じたのはいいもののトシ兄はもう既に怒っているしその日は誰かを探りを入れられ喧嘩の一歩手前までいったのだった

「うわぁ、土方先生軽くキモいレベルだよ、それ。」

「”ド”が付く過保護ね”・・・」

「・・・・否、そんなことは・・」

「はじめくん今回だけは土方先生のこと庇いきれないんじゃない?」

うぐ、と息詰まったはじめくんを余所に総司は私から奪ったホットココアを口にしていた。その横で千鶴ちゃんが心配そうに眉を下げていて、本当可愛いんだこの生物。

「なまえ先輩・・・あの・・・、やっぱり一度土方先生とお話されるべきじゃないでしょうか?」

「・・・ねぇ、千鶴ちゃん君、はじめくんを殺したいの? 」

「そうだぜ?!はじめくん生きて帰ってくる保障ねぇよな!!」

いつも読めない笑みを浮かべる総司さえも頬を引きつらせた千鶴ちゃんのその発言に思わず苦笑を漏らすと千鶴ちゃんは、はっとして申し訳なさそうに身を縮ませていた。

『千鶴ちゃんの言うことが正論ではあるんだけどね 』

小さく呟いた声は静かになった屋上に少しだけ響いた。

「おい、沖田・・・やっぱりここにいたか」

『へ?!トシ兄?!』

背後から掛けられた声に肩を震わせると総司はやれやれ、という顔をしていたし千は苦笑をこぼしていたし平助に限っては「げ、」と声まであげていた。

「なんだてめぇら、随分なご歓迎だなぁ?」

『・・・トシ兄・・・』

不機嫌そうな眉間の皺はわたし達の明らかに歓迎していない雰囲気が気に食わないと物語っていて、手に持っている紙をぐしゃりと握りつぶしていた。

「土方先生、今日はどうしたんだ?!」

「あぁ?どっかの誰かが古典の小テストで赤点をとりやがったからな・・・なぁ、沖田?」

「あれ?満点の間違いじゃないですか?」

「これのどこが満点だ!!!!」

怒りで震えている手に持っていたプリントを翳すとそこにはトシ兄らしき男の人が馬にのっている絵がかいてあった。

「えぇー、傑作じゃないですか、僕の力作だったのになぁ」

「てめぇ、こんなんは傑作とは言わねぇんだよ!!!」

あーあ、いつもの喧嘩が始まった。みんな慣れたものではじめくんさえも目を伏せて見ている。

『はじめくん、どうする?』

「・・・やはり、話し合うしかないだろう。」

『覚悟決めるしかないよね・・・』

この機を見てひそひそと話しているときっ、とした菫色の綺麗な目がこちらを向いて私がなぜか睨まれる。

「そこ、はなれろ!!」

『は?!どうしたの急に?』

「とりあえず離れろ!!」

「うわぁ、土方先生実はなまえちゃんが誰と付き合ってるか知ってるんだ?」

『・・・・へ、』

「だって分かっているからなまえちゃんとはじめくんが近くにいるのがダメなんでしょう?先生」

「・・・・そんなわけじゃねぇよ」

あ!目をそらした!気まずそうな顔してる!!図星だ!

「本当シスコンなんですね、土方先生って」

『総司・・・』

「何を言われようが俺は認めねぇぞ」

「・・・土方先生、俺となまえのことを認めてくれませんか。」

「断る」

『トシ兄おねがい!!』

「お前の頼みでも聞けねぇな」

ふん、と鼻を鳴らしたトシ兄は煙草を加えて紫煙をあげた。見慣れたその煙を見ながらどうすればいいかと頭を悩ませていると総司が名案を思いついたとでも言いたそうににんまりと口元を上げるその姿に千と顔を見合わせた。


「ねぇ土方先生、ここって禁煙でしょ?」

『あ、確かに』

「これって近藤先生に言ったらどうなるのかなぁ?」

「・・・脅しか?」

「総司、脅しはよせ。」

「まさか。脅しなんてしてませんよ?ただ、どうなるのかなぁ?って。」

してやったという様ににこにこと笑って総司はスマフォを片手に”なんなら今土方先生の目の前で教育委員会に電話でも入れましょうか?”なんて爽やかにいいのけるものだからみんな閉口してしまった。

「ねぇ、なまえちゃんどうする?君がかける?君なら近藤先生の電話番号も知ってるわけだし手っ取り早いよね」

『え、ちょっと総司・・・!!』

「沖田てめぇさっきから黙って聞いてりゃ・・!!!」

「何言ってるんですか、なまえちゃんにははじめくんのこと許さないのに土方先生自身のことはルールを破ってもいいって事ですか?」

「総司、そろそろ止めろ。」

嗚呼、やっと止めてくれた。トシ兄は泣かないだろうけど、私が泣きそうだ。

「はぁ、はじめくん。規則うるさい君のくせに土方先生のことになると見逃すわけ?」

「そういう訳ではない、しかし度が過ぎている言い過ぎだ。」

「・・・そうかな?それになんで君が泣きそうなのさなまえちゃん」

『っ、だって私はトシ兄もはじめくんも好きだし、』

その言葉にうっ、と言葉を詰まらせた様子のトシ兄は少し思案する素振りを見せたあとに”好きにしろ”と、小さく呟いて去っていった。

「土方先生って本当なまえに弱いよな」

そうつぶやいた平助の言葉に頷いてしまったのは言うまでもないのだろう。

昼下がりの剣道部会議。

( 無事可決 )

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