「千、さっきの時間のノート見せてー」
『なまえ、また寝てたでしょ?』
「う・・・だって新八先生の呪文が・・」
休憩時間にあいつの声が聞こえる。
あいつの声だけは透き通ってどれほどの雑音の中にいようが、どれほど遠くにいようがちゃんと聞こえる。
そう前に総司に口を滑らした時に総司が思い切りニヤニヤとした笑いを見せたのを思い出した。横目で総司を見ればつまらなそうにスマフォをいじっている。
そう言えば、喧嘩をしたのだったな、と思い出す。
まだ引きずっているのかと内心呆れ半ばに目を教科書に目を戻した。
「はじめくん」
「なんだ。」
「なまえちゃんに何言ったわけ?」
「・・・なんの話だ?」
「惚けないでよ」
なまえちゃん、君のことチラチラ見てるの気づいてないの?
その言葉に少なからず動揺した俺はなまえの方に目を向ければ一瞬、目が合ったような気がした。
「なーんてね。あれ、今の本気にしちゃった?」
「タチの悪い冗談はやめろ総司。」
「まっ、なまえちゃんチラチラとこっち見てるのは事実だけどね。」
にやにやといったいつもの類の笑みを向けてくる総司をよそ目にあることに思いを馳せた。
なにゆえなまえは俺を避ける?
問題はあの日、俺がなまえに文化祭を共に回ることを提案した日のことなのだが
あの日を堺になまえは俺を避けるようになった。
今考え直してもその答えは出ることがなく
ここ一週間ほど続いている状態だった。
「はじめくんさ、なんでなまえちゃんに避けられてるか本当に分かんないの?」
「・・・嗚呼。」
「ほんっとう、鈍感だよね。」
大きい溜息をひとつこぼした総司はぐしゃりと自分の頭を掻いてなまえたちの方に目をやった。
「まぁ、僕も悪いのかな。」
「・・・総司、」
「仲直り、協力してあげないこともないよ」
そう言ってにやり、と笑った総司に何をする気だ、などと問いかけても秘密、としらばっくれられ当日を迎えることとなった。
「おい、斎藤。お前はもう休憩していいからよ、ちーたぁ文化祭回ってこい」
「・・・御意」
文化祭開始してから浮かれた生徒を見つけるための見回りを続けていた俺に気を利かせてか否か土方先生が紫煙を吐きながら言った言葉に頷いたのはいいものの、特に何もすることがない故結局たどり着いた場所はいつも風紀委員が使っている理科室だった。
「・・・なまえ。」
窓の外を眺めていれば井吹と翔、雫と楽しそうに会話をしているなまえが見え
途端に言いようのない黒い感情がわいてくる。
「やはり、あんたの好いてるものは・・・」
この前は、否定をした。
だがしかし、隣にいたから恥ずかしくて否定をした。なんて理由も有り得るわけだろう
そう考えると今まで悩んでいた謎が解けたような気がした。
ここ数ヶ月距離が縮まった気がしていたのは俺の自惚れかそれとも・・・。
「その可能性は低い、か」
『なんの可能性?』
「っ?! 」
聞き覚えのある声に驚き後ろを振り返ればしてやった、という表情を浮かべてなまえがピースサインを作っていた。
「なまえ、あんたはなにゆえ此処に・・・」
『なんでって・・・はじめくんならここにいるかなぁ、って思って!』
なにゆえ俺を探す?俺の元へ来る?井吹はいいのか?
問いたいことは山のようにあるのになまえが俺の元へ来て前と変わらぬように話しかけている、その事実に舞い上がり俺は言葉を発せなかった。
『それにはじめくんに伝えたいことがあって。 』
「・・・なんだ?」
『・・・あのね、聞き流してくれてもいいよ。』
「嗚呼。」
少し迷った表情を浮かべ決心したようにこちらを向くなまえ。
不覚にも抱きしめたい、と素直にそう思った。
『あのね、私の好きな人の話。』
「っ、嗚呼。」
『あれね、私が好きなのは』
夢か現か。(はじめくんだよ、なんて顔を赤く染めていうなまえは俺の都合の良い夢なのだろうか?)
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