斎藤 長編 | ナノ


「ねぇなまえ、なまえー?なまえってば!」

『ちょっとまってて千。この勝負負けられないから! 』

「子供相手になにしてるのよ・・・」

『だって翔的あてつよいんだもん!!』


冬空の寒い中今年も文化祭が行われているわけで
今年は一人で回る予定だった文化祭も翔と雫、そして何故か千。

『そんな怒らないでよ千ー!』

「なっ、怒ってないわよ?」

『総司と喧嘩して落ち込んでたくせに・・・』

「っ!・・・それは、否定しないけど・・・」

文化祭の数日前に勃発した喧嘩は未だに続いているらしい二人は性格もわざわいして未だに仲直りを出来ずにいるらしい。

『・・・謝ったら?』

「嫌よ、今回のことは総司くんが悪いんだから。」

怒ったような表情を見せたあとに少しだけ寂しそうな表情をする千が可愛くて可愛くて。
頭を撫でてあげると驚いたような表情をされたけどすぐにいつもの笑みに戻っていた。


「それより、斎藤くんとはまだ話せてないの?」

『・・・んー。話してはいるよ?』

ただ、前より話すことは減ったけれども。
誘いを断ってから必要最低限しか話さなくなったわたし達は傍から見ても気まずそうに見えていたのだろうか、一昨日総司から事情聴取をされ半ば無理に事情を吐き出したのを思い出して思わず苦笑いがこぼれた。


「ほんっと、女心がわかってないんだから斎藤くん・・・」

『あはは・・・』

「なまえちゃん、はじめちゃんとけんか、したの?」

そう言って私のスカートの裾を握って不安そうに見上げている雫の頭を撫でて大丈夫だよ、なんて言うと安心したようにニコニコとし始める。かわいい!


「しずく!なまえちゃんなかせたらおれがまもるんだからだいじょうぶだ!」

「しょう、はじめちゃんにまけちゃうよ・・・」

「あら、翔くんが勝つかもしれないわよ?」

『千まで・・・』


「そうそう、はじめちゃんはさ小さい子と好きな子には弱いから」

『うわっ、総司!!』

のしっ、とした感覚が頭に来るとともに総司の声がした。重くて振り向けないけどこんなことをするのは総司だけだし!!

「なまえちゃん今日も幼いね」

『嫌味か!!』

「みょうじ、同情はしとく 」

『え?龍之介くん?』

総司の腕の攻撃をよけて振り向けば心の底から同情している顔をした龍之介がいた。

「・・・で?どうかしたの?」

『あ・・』

龍之介くんと総司の登場に驚いていると後ろからの冷たい声に思わず背筋が震えるのを感じた。

「・・・まだ、怒ってる?」

「当たり前じゃない!」

「・・・ごめんね、千」

総司が珍しく謝罪の言葉を口にするとぎゅう、と千を抱きしめていて。
龍之介くんの声と翔の声が聞こえたけど、雫は横できらきらと目を輝かせていた。


『・・・さて、と。邪魔者は退散しようか。ね?龍之介くんっ!』

「なっ?!そ、そうだな!」

そう言って何故か頬を赤く染めた龍之介くんの手と翔の手を取って歩き出すとちゃんと雫もついてきた。こういう時はやっぱり女の子の方がちゃんとしてるんだ。

「まったく、急に暇なら付き合えなんて言い出したと思ったらこれだもんな」

『総司、相当落ち込んでたんだからね? 』

「あの沖田が、か?」

一昨日、総司が私とはじめくんの事情を聞き出すとともに私も総司と千の喧嘩の原因を聞いて仲直りに協力せざるおえなくなったのだ。

『はははっ、分かりにくいって思われやすいかもしれないけど、総司落ち込んでる時は練習試合鬼だったりとか授業出なかったりとか結構分かり易いんだよ。』

「よく人のこと、見てるんだな。」

『まぁ、伊達に毎日のように総司と話してるわけじゃないからね 』

「それじゃ、斎藤のこととかもわかってるのか?」

『はじめくん、はどうだろうなぁ・・』

「斎藤のことはわかんないのか?好きなんだろ?」

『うん・・・って、っえ?!なんで知ってるの?』

「なんでって・・剣道部じゃ有名なんだろ?いつ付き合うのかってみんな話してるぜ。」

『付き合うって・・・無理だよ。』

はじめくんには好きな人がいるのに。
その事実が私の心をさらに重たくさせた。

はじめくん、ちゃんと好きな人を文化祭に誘えたのかな?
不器用だから上手く誘えずにもやもやしてるのかなぁ。
なんでこんなにも私の中にははじめくんのことだらけなのだろう
好き、って気持ちがここまで私の中ではじめくんの存在を大きくさせているなんて
こんなの数ヶ月前の私が見たらどう思うんだろう、なんて思わず自虐的な笑みがこぼれた。


「・・・あー、何て言えばいいんだ?そう落ち込むな、あんたがそんな顔してると、俺が剣道部のやつらに怒られちまう」

『・・・龍之介くん』

ぐしゃり、と雑になでてくれた手がトシ兄とどことなく似ていて
でもぎこちない手に思わず口元が緩んだ


「それに、チビ達が不安そうに見てるしな」

『あ・・・』

見下ろすと翔と雫が心配そうに見上げていた。

「なまえちゃん、どこかいたいの? 」

「はじめのせいなのか?」

『・・・んーん。どこも痛くないしはじめくんのせいじゃないんだよ。』

しゃがんで二人をぎゅう、と抱きしめると弱くて小さい手が僅かに私のカーディガンを掴んできて。

「・・俺が言うことでもないんだろうけどさ、自分に自信がなくても玉砕覚悟でも言ってきたら良いことがあるかもしれないぜ?」

『っ、ねぇ、龍之介くん。ぼろっぼろに玉砕したら慰めてくれる?』

「どこまで自信がないんだよ・・・まぁ、慰めるだけならいいけど。」


『・・・雫と翔、面倒おねがいします。』

「は?!おっおい!!みょうじ・・・!!」


多分はじめくんのことだから
見回りの時間以外は人混みを逃れてあの場所にいるんだろうな

そう思ってすぐに駆け出した。


その想い伝わるか否か。

(ほら、やっぱりあの姿。)
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