「なまえ、動かないで!」
『え?!ちょ・・・この体制きついよ千!』
「・・・刺さるわよ?」
『うごきません!!』
「まったく・・・衣装係がいないのによくあれこれ提案できたものよね、男子」
『あはは、本当だよー』
それはある日の放課後。学校内ではそろそろ文化祭の時期だということで文化祭週間に入ったわけで。
わたし達のクラスはというと和風カフェにしようというはなしで、落ち着いた。というよりかは、男子が出した案をひたすらに総司が切り捨てていきはじめくんが止めたのが和風カフェを総司が切り捨てようとしたあたりだったのだ。
「まぁ、去年みたいにメイドじゃないだけましかしら?」
『可愛かったけどなぁ、千のメイド姿!』
「ふふっ、なまえもにあってたわよ」
『去年総司におこちゃまっていわれたけどね』
忘れもしない去年の文化祭。総司にお子様扱いされて私が騒いでいたらはじめくんが宥めてくれたっけ。
「さっ、脱いでいいわよ!これで作ってくるから。」
『ありがとう!千大好き!!』
「ふふっ、それはありがとう。」
ニコニコと笑う千が可愛くて可愛くて思わず抱きつきそうになったのを抑えて衣装を脱ごうとすればドアが開く音がした。
「なまえ、そろそろ風紀委員の時間・・・だ・・・」
「あら、斎藤くんちょうどいいところに来たわね」
『あ!はじめくん!見てみてこの衣装ー!』
山吹色の着物の布地を着たままくるり、と一回転するとはじめくんからの反応はない
『・・・はじめくん?』
「フリーズ、してるわね」
・・最近フリーズ多いなぁ。なんて思っているとフリーズ状態にあったはじめくんがはっ、としてこちらを見る。
「そ、そのだな・・・っている」
『・・ん?』
「に、にあっている!!」
予想より大きい声にびっくりしてはじめくんの方をじぃ、と見れば顔を背けたはじめくんの頬が紅潮していて。
自分の口端が上がるのを感じた。
『ふふっ、ありがとうね。』
「・・・そろそろ、会議だ。先にいくぞ。」
『え、すぐ支度するから待ってよ!!』
「・・廊下で待っている。」
そう言って足早に教室を出ていったはじめくんを見て千と顔を合わせると思わず笑いあってしまった。
「なんだか2人とも順調そうで安心したわ」
『・・・順調?』
「なんでもないわよ!ほら、早くしないとおいてかれるわよ?」
『あ、いってきます!』
下地段階のそれを脱いで千に渡して廊下に出ていればいつもの様子のはじめくんがいて。
なんだか、惜しいなぁなんて考えながらも歩き出したはじめくんの少し後ろを追いかけた。
夕焼けに染まった廊下は静まり返っていて二人分の足音が響く。
「・・・なまえ」
『ん?』
「あんたは文化祭・・誰と回るか決めたのか?」
『あー・・・千と周りたかったけど・・』
千は総司と。千鶴ちゃんは平助と。(総司を除いて)はっきり言われたわけではないけれども、いつの間にかそれが暗黙の了解のようになっていた。(総司は文化祭の店決めの時に宣言していたけれども。)
「その、だな・・・ 」
『ん?』
「よかったら俺と一緒に回らないか?」
『・・はじめくんと?』
「嗚呼。あんた一人では危なっかしい上に俺もあんたも回る相手がいない。それに、総司にあんたと一緒に回ってやれと頼まれてな」
『・・・へぇ、総司に。』
一瞬浮かんだ心が鉛のように重くなっていくのを感じた。ただ、一言。あんたと回りたいだけで良かったのに、なんて思ってしまう私は随分わがままだなぁ、なんて心の中で苦笑いをすればはじめくんとの距離を感じてしまう。
『あの、ね・・わたし、文化祭ゆかりちゃんが来るから一緒にまわるんだ。』
「っ、そうだったのか」
『ごめんね、はじめくん』
そう言って笑った私の顔はわらえていたのだろうか?
友達という平行線。(それとも、ひどい顔をしていたのだろうか?)
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