『龍之介くんーつかれたー』
「我慢しろよ・・・あとちょっとだ 」
『無理!!こんな高いヒール履きなれてないし』
「・・・あんた本当に女子か?」
あっ!!龍之介くん呆れた!!呆れてる!!酷い!!なんて騒げば龍之介くんのため息が聞こえた。
『・・・・帰りたい・・・』
「おっ、おい!!帰るなよ?!」
『帰らないよ・・・けどさ、』
龍之介くんが立ち止まった建物を見て思わずため息がこぼれてしまう。
とある晴れた休日。目の前にはあの理事長の芹沢鴨の豪邸。なんでこんな目にあってるのだろう。
事の発端はあの時の龍之介くんの頼み事だった。
「みょうじ!この学校の女子彼氏がいないお前だけしかいないんだろ?俺の彼女役をしてくれないか?」
『・・・なんでまた?』
「芹沢さ・・・俺を引き取ってくれてる人の挑発にのっちまって・・・頼む!!俺の命を救うと思って!!」
『・・ねぇ龍之介くん、今芹沢さんっていいかけた?!』
「あ、ああ・・・芹沢さんのこと、知ってるのか?」
『知ってるも何も・・・』
トシ兄とよく衝突をしている芹沢さん。
いつもトシ兄より上手で発言も筋を通ってて・・・でもどことなく苦手なのだ。
「まぁそれなら話は簡単だな、頼む!!」
『・・・んー、いいよ』
龍之介くんの迫力に負けて私は思わず肯定をしてしまい今に至るという訳だ。
正直この建物に足を踏み入れる勇気はない。いや、まずこの建物に足を踏み入れる勇気がある者は数少ないだろう。
「みょうじ、ぼーっとせずに早く入れよ」
『いや、やっぱ無理!!龍之介くん怖いよ!!』
「芹沢さんだってそんな悪い人じゃないんだが、なぁ・・」
そう言って頭を掻く龍之介くんに影が出来て、見上げれば・・・嗚呼、龍之介くんここで立ち止まった意味はなかったみたいです。
「貴様ら、ここで留まって何をしている?」
「わっ?!芹沢さん、後ろから近づくなら声をかけてくれよ・・・」
「何故俺が貴様に声をかけなくてはならない、犬」
『うわぁ・・・the暴君・・・』
小声で呟いたつもりだったその声が聞こえたのか否か芹沢さんは私を上から下までじろり、と見てからにやり、と笑みを浮かべた。
「ほぅ・・・土方の所の娘か」
『・・・久しぶりです、芹沢さん!』
「貴様が犬の恋人とはな・・・まぁいい、」
鼻で笑った芹沢さんがくるり、と向きを変え家の中で戻っていった辺り迎に出迎えてくれたのだろうか?いや、芹沢さんに限って・・・なんて考えていたら龍之介くんが私を目で促していたので諦めて足をすすめる。・・・憂鬱だ。
龍之介くんに案内されて入った部屋は和風作りの部屋で静かに芹沢さんは鎮座していた。
「芹沢さん、こいつ俺と付き合ってるみょうじ・・・ってあんたたち知り合いなんだよな?」
「貴様、何故犬と交際を始めた?」
わお、芹沢さん相変わらず話を聞かないんですね!
なんて言いたいところを飲み込んで苦笑いを浮べれば面白くなさそうに芹沢さんは目を細める。
『なんでって言われても・・・惚れたはれただけです、なんて言葉じゃ芹沢さん納得しないでしょう?』
「ふん、当たり前だ。」
『そうですねぇ・・・龍之介くん、頼み事は聞いてくれるし・・・あと、重い物持ってくれるし・・・あ、できたら剣道部入部して欲しいんですけどね』
「俺の好きなところじゃないだろ?! 」
『あ・・・』
慌てて芹沢さんの方を見れば中々極悪人らしい笑みを浮かべ私と龍之介くんをみていた。
嗚呼、ごめん龍之介くん。これは無理だ。
「犬、俺に嘘をつくとはいい度胸だな。」
「なっ?!なんの話だ芹沢さん!!」
『龍之介くん、もうダメだよ。』
「おいみょうじ、何言って・・・!」
「土方の所の娘。貴様は犬に頼まれた分際か
」
『そうですね・・簡単に言えばそうなります。』
「おい!!みょうじ!!」
絶望に打ちひしがれた龍之介くんに密かに謝罪をして明日何かを奢ろう、なんて心に決めたところで芹沢さんは興が冷めたと言って部屋を出ていく。どうやら解散の合図らしく龍之介くんはこれから待ち受けるであろう事にため息をついて形だけの礼を述べてくれた。
「ほら、立てるか?」
『なっ、失礼な!正座くらいで!!』
「そんなムキになるなよ、ほら」
手を差し出してくれた龍之介くんがちょっとだけイケメンに見えた。ちょっとだけ。
『・・ありがとう』
「あんたって素直なのか頑固なのか分かんないよな」
『そう、かな?』
「嗚呼、現に今だって強がっただろ? 」
『う・・』
「腕、掴んどけよ。あんたに転ばれたら斎藤に怒られちまう」
『なんではじめくんが出てくるの龍之介くん』
「・・・あー、まぁいいんだよ。細かいこと気にするなって、な?」
少しだけ苦笑混じりの龍之介くんは私でも歩けるように歩幅を合わせてくれて
もう大丈夫なんだけどな、なんて思いながらありがたく行為に甘えさせてもらうことにした。
「ほら、そろそろ門でるから・・帰り道は流石にわかるだろ?」
『龍之介くん、私のことバカにしてる?』
嗚呼、今まで私の中でのイケメン度が増していたのが崩れた。なんて言って見せれば龍之介くんは驚いたようにあたふたとしていて
なんだか可愛いくて思わず頬がゆるんだ
「・・・やっと笑ったな」
『え?』
「ほら、その・・・今日全然笑ってなかったから・・・」
そう言って気まずそうに目をそらした彼は一応私のことを気にかけてくれていたらしい
『ふふっ・・・ありがとうね龍之介くん!』
「なんであんたが礼言ってんだ?」
『いいのー!私が言いたかったんだから!』
「変な奴・・・ってあれ、斎藤か?」
龍之介くんの目線の先を辿れば紛れもなくピン、とした背筋のはじめくんがいて
なんだか目を開いて硬直しているように見える
「斎藤の奴、硬直してないか?」
『なにかあったのかな?』
「っ!みょうじ手・・・」
『あ・・・』
「あんたたちはそこで何をしている、恋人役という設定とは聞いたが家を出た後もそのようにいちゃついているとは・・・まさかなまえが言っていた好いてるものとは・・・」
『違うから!!龍之介くんじゃないから!!』
「こっ、こいつが正座で立てなくなったから腕をだな・・・!!」
「・・・そう、なのか?」
きょとん、としたはじめくんは次の瞬間恥ずかしそうに目をそらした。・・・可愛い。
そう思ってしまうのは惚れた弱みってやつなのだろうか。
「なまえ、あんたを迎に来た・・・帰るぞ」
『うんっ!』
綺麗に微笑むはじめくんに思いっきりの笑顔で返せば龍之介くんが隣でため息をつく音が聞こえて、また今度何かおごってあげなくちゃ、なんて思いながら綺麗に染まった夕焼けにむかって歩き出したのだった。
夕焼け小焼け。(あれ、でもなんで迎えに来てくれたの?)
(土方先生に言付かった故。 )
(・・・真面目くん。)
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