好んでいるのは
その言葉が頭に残って消えない。あの時からずっと悩んで毎日を送っているがあんなことをした張本人は今日もびしり、と背筋を伸ばして授業を受けている。なんだか不思議だ。
「なまえちゃんなまえちゃん」
『なにー?』
「これあげる。」
そう小声でチョコの包み紙を渡してきたのはあの日ミルクティーとコーヒーを奢ってくれたあいつで、いつも真面目に授業を受けている彼女も珍しくこちらを向いて何か目が輝いていた。チョコを受け取ってはいけない気がしたのは気のせいだと信じたい。
「・・・で?」
『で、とは?』
「斎藤くんとどうなったのよ?」
”斎藤くん”その単語が出た瞬間チョコを落とした私は新八先生に見つかって「真面目にし授業受けてくれよー」なんて声が聞こえる。
「ぷっ・・すごい動揺っぷり!!!」
『笑うな総司!』
「だってはじめくんと同じことするんだもん」
”はじめくん”その単語を聞いた途端また体が硬直するのを感じた。
「なまえもやっと自覚したわけね。斎藤くんも報われるわ」
「本当だよ、好きな子に相手にされないって相当きついものがあるよね」
『なっ・・・はじめくんが、好きとかわかんないし・・・』
「・・・は?」
「なまえ、告白されたんじゃないの?」
大真面目顔でこちらを凝視してくるカップルに苦笑を向けて首を振ると総司と千のためいきが重なって新八先生が「お前らー、俺への嫌がらせか?」なんて言っているのも聞こえる。
「まったくヘタレだよね・・」
そう総司が呟いたあとにはじめくんが後ろを向いてわたし達を睨んできて授業を受けろオーラをだしている。うん、いつもの光景。
千はやれやれ、と言った様子で授業を受け始めると比例して総司ははじめくんにべーっ、と舌を出したあとに寝始めた。
なんだったんだ!!なんて私の心の叫びは無視されそうだったので黙って前を向くと丁度チャイムが鳴ってきりーつ気をつけ!礼!なんて声が耳に入ってきて教室のあちこちから声が聞こえだした。
「なまえ、総司、千。真面目に授業を受けろ。」
「えー、真面目に受けてたよね?千」
「ええ。真面目に授業を受けていたつもりだけれど 」
いつのまにか近くに来ていたはじめくんにびっくりすることなく総司と千がニヤニヤと笑みを浮かべている。
なんだかそっくりだな、二人なんて思っていると教室外からすごい足音が聞こえてきた。
「みょうじ!!いるか?!」
『あ、龍之介くん!どうかした?』
息を切らして走ってきた彼は教室につくなり私の肩を掴んで真剣そのものだ。
「あんたに・・・お願いがあるんだ!!」
『なに?』
そのお願いを聞いたとき、私は硬直したのだった。
一難去ってまた一難。((後ろからはじめくんのペンを落とす音が聞こえた。)
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