斎藤 長編 | ナノ


「ねぇ、寒い」

日が暮れるのが早くなった季節
ベージュ色のカーディガンを着ている男は整った顔を不機嫌そうに歪ませて私の頬をつねってきた

「なんで千と千鶴ちゃんが風邪を引いて君がひかないわけ?」

『ふぇ、そんなことひわれても!!』

「ああ、馬鹿は風邪をひかないっていうもんね」

『総司のぶぁーーーっか!!!』

そう、何故か私以外のマネージャー勢が風邪をひくという事態が起こってたのだ。
総司は不機嫌に、平助はどことなくそわそわとしていたしトシ兄の怒鳴り声がいつもより3割増だった気がする

「土方先生はうるさいしはじめくんも不機嫌だし・・・」

『あはは・・・』

そう言えばはじめくんもオーラからして不機嫌感が滲み出ていた。
人に当り散らす性格ではない彼にしろ少なからず影響はあるわけで。
その影響を受けるのはいつも隣にいる総司なわけで。

少し可哀想になった彼に奢ってあげたあんまんを食べている彼は案外ケロッとしといる。

「あ!なまえと総司じゃん!!」

『げ、平助』

「なまえちゃんなにか見えてるの?」

「嫌味かよ総司!!」

『あ、ごめん幻覚だったのかも・・・』

「はぁ?!総司ならまだしも俺なまえより身長たから見えてるだろ?!」

『うるさい平助!!』

黄色のマフラーに顔をうずめて寒そうにしている後輩は相変わらずぎゃーぎゃーと騒いでいる・・・子犬みたい。

「・・・んで?はじめくん。君はまだ不機嫌な訳?」

「っ・・・その、悪かった・・」

そんな子犬のとなりには番犬がいて。気まずそうに目をそらして謝るはじめくんは今日の不機嫌だったことを謝っているのだろう

「・・・はぁ。別にいいけど。」

そう言ってあんまんの最後の一口を口に放り込むと平助が自分の腕をさすりながら口を開く。

「あんまんうまそうだなー」

「これなまえちゃんの奢り」

「は?!ずりぃ!!」

「なまえちゃーん、平助がなにかおごってくれるってー!」

『え?!本当?!』

「なっ!!俺そんなこと言ってねぇ!!」

『私ミルクティーがいいな!はじめくんはー?』

そう言って振り返った途端、しまったと思った。

明らかにはじめくんの表情がひきつって、目が合ったのに逸らされる。・・・あぁ、切ない、なんてまた気分が沈むのを感じながら首を傾げると”俺はいい・・・”なんて言われてさらに気分が沈む

「あぁもう焦れったいなぁ!!」

「っ?!なんだ総司?」

「ほら、僕の奢り。感謝してね?」

なんて言って飛んできたのはミルクティーにブラックコーヒーが見事私の腕の中に収まった。

「なまえちゃん、しっかりやりなよ」

『は?え?ちょっ・・・!!』

平助の首根っこを掴んで走っていった総司をぽかん、と見送る。あ、平助の喚き声がまだ聞こえる。


『・・んーと、とりあえず・・はい!』

そう言って渡されたブラックコーヒーをはじめくんに差し出すと目を伏せながらも受け取ってくれた。あ、まつげ長い。

「・・・その、すまない。」

『・・・へ?』

「あんたと総司の時間を・・・邪魔してしまった。」

真顔でそう告げるはじめくんが言いたいことがよくわからずに思わず凝視すると目をそらされて”・・・・好きなのだろう?その、総司のことを・・・”なんて言うものだからミルクティーを吹き出しそうになった。いや、少し吹き出した。

「っ、大丈夫か?否、安心しろ俺以外は気づいていない上に俺はこのことを誰にも言うつもりは・・・!!」

『待ってはじめくん!!違うから!!』

「・・・違う?」

『わたし、が・・好きなのは総司じゃないから!!』

「・・・それは本音か?」

嘘でこんな事言いません!!そう言ってこくこく、と何回も肯けばはじめくんがどことなく安心したように本日何度目かの謝罪を口にしていて期待しちゃうよーなんて言っちゃいそうになる。

「しかし、思わず三角関係にもつれるのかと思い内心穏やかではなかった・・・」

そう真顔で呟いたはじめくんは真剣そのものでなんだかおかしくなる。

「む・・・笑うな。」

『だってはじめくんが・・・ふふっ、』

「・・・てっきり、総司かと思ったのだ・・」

あんたの好いている男、とやらは。なんて呟くから前からの疑問をくちにだしてみた。

『・・でも、はじめくんの好きな人って千鶴ちゃんでしょ?』

・・・・あれ?
はじめくんの目がこれまでもかってほどに見開かれている。なにか爆弾発言をしてしまったのだろうか?

「・・俺が雪村を・・好いている?」

『・・うん・・』

ありえない、というような目は私の目を逸らす事無くガッ、という音が聞こえそうな勢いで彼は私の肩を掴んだ。


「そんなことはない。」

『・・・え?違うの、?』

「俺が好いているのは・・・」

好いているのは?なんて聞き返す前にはじめくんが見えなくなってあの日と同じ温かみに包まれる感触があった。


君の匂いが。

(離れた瞬間、帰るぞなんて言うものだから 。)


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