斎藤 長編 | ナノ


はじめくんの様子がおかしい

何が、と聞かれれば答えるのは難しいのだが例えば目が合う度にそらされる。
元からはじめくんは目を逸らす癖があったから考え過ぎと言われればそうなのかもしれない。
そしてなにより、素っ気ない。
これも元から冷静なはじめくんのことだから考え過ぎと言われればそうなのかもしれないけれど感じる違和感を拭いきることはできない。
心の中に出来た靄にここ数日悩まされていた。

「なまえちゃん、なにかしたんじゃないの?」

そう言いながら期間限定のポッキーを食べている男は明らかに無関心そうで

『・・・なんにも覚えがない』

「本当に?はじめくんが嫌がることとかしなかった?」

『んー・・・?』

頭をフルスピードで回転させるが・・・何も思いつかない。

『はじめくんが嫌がること・・・』

トシ兄をいじめることとか、総司といっしょになってトシ兄に悪戯を仕掛けようとする時とか・・・あ、あとはべたべたとくっつかれるのも嫌がりそうだ。

『・・・あ』

「・・・あったの?」

『たぶん・・・』

頭の中であの日・・はじめくんの目の前で泣いたときのことが浮かんだ
あの時はじめくんが抱きしめてくれていたとはいえ、流石に近かったのが嫌だったのだろうか。

『あー・・・』

「その様子じゃ、君余程のことやらかしたみたいだね・・・何したわけ?」

机に項垂れた私を総司がポッキーを口に運びながらじぃ、と見ている。

『・・・・謝った方がいいのかな?』

「知らないけどなまえちゃんが謝ることでもないんじゃない?」

『なっ・・・だってはじめくんに避けられるの嫌だ・・・』

「大丈夫だよ、はじめくんなまえちゃんには弱いから」

『・・そう、かな?千鶴ちゃんにも甘いと思うけど・・・』

私が出した名前が意外だったのか少し目を見開いた総司はポッキーの袋を丸めながらため息をついた

「念の為に聞いてあげる。なんでそこで千鶴ちゃんが出てくるわけ?」

『え、・・・そ、それは・・・』

「もしかして、はじめくんが千鶴ちゃんのこと好きだ、なんて思ってないよね?」


ぎくり、と効果音がつきそうなほど肩を震わせると総司は呆れたように目を閉じて
はじめくんには同情するよ、なんて呟いていた

「なまえちゃん、嫉妬ってしたことある?」

『・・・嫉妬?』

「そう、嫉妬。はじめくんに嫉妬、したことないの?」

嫉妬、という感情なら昔よく勇さんに抱いたことがある。トシ兄と仲良くしている姿を見ると幼いながらにトシ兄を取られる!なんて焦ったものだった。だけれども、はじめくんに・・・と言われるとよくわからない。


『・・・んー、どうだろう』

「はじめくんと千鶴ちゃんが話してると胸の辺りがもやもやしない?」

『なる』

「じゃあ、それが嫉妬だ。」

ね、簡単でしょ?なんて新しいお菓子の封をきる総司が少しだけ大人びて見えたのは内緒だ。


『・・・嫉妬。』

「これは僕の憶測だけどね、」

そう言って総司はコーンの形をしたお菓子を私の口に突っ込むと向かい側の校舎の方を目を細めてみながらつぶやいた。


彼も誰かに。

(似たような感情を持っているんだと思うよ)
prev next



- ナノ -