斎藤 長編 | ナノ


『沖田総司減点3!』

「なまえちゃん、久々に学校で見かけたと思ったらそれはないんじゃない?」

『ごめん総司、規則だから』

「いつから規則を守るような子になったのさ、制服以外」

『制服以外余計だから!!』

いつも通りの朝の光景。総司が遅刻をしてきて風紀委員が取り締まる。だけど、皆より少し遅めの新学期を迎えた私にもちゃんと変化はあった。


「・・・げ、沖田が先についてるってことは遅刻か?」

『あ、龍之介くん!おはよ!減点3!』

「あんた本当に風紀委員らしくないよな」

そう。それは井吹龍之介くんの転入。理事長と関係があるらしい彼は一学年下の割に私にも総司にも、はじめくんにもタメ口だ。

『龍之介くん、知ってる?この減点って溜まるとペナルティーが待ってるんだよ?』

「それは入学するときに聞いたが、そんな俺はまだ溜まってないだろ? 」

『今は、ね?風紀委員がいじっちゃえばすぐ・・・』

「そんなことしていいのか?!」

慌てた様子の彼は、平助とすぐ仲良くなれた事といじられやすい性格が災いしてか総司にとてもいじられる。もちろん私にも。

まぁ、風紀委員の権力を翳すつもりはないものの龍之介くんの反応が面白くてついつい、いじめたくなるのだ。

「なまえ、権力を翳すな。」

「あ・・・」

『あ、はじめくん!』

私の背後に出来た影をたどれば呆れ顔のはじめくんがいて、手元にあるボードに何かを書き込んでいた。

「総司、あんたはそろそろ恋人に起こされなくても早く起きる癖をつけたらどうだ。」

「嫌だなぁ、そんな何も面白味が無いことできないよ。」

「面白味が無くともこのままではペナルティーがつくぞ。」

はじめくんは呆れた表情をつくりながらも龍之介くんと総司に早く行けと校舎を指さした

「ったく、相変わらず真面目だよな斎藤は。」

『あははっ、はじめくんから真面目抜いたらはじめくんじゃなくなるからね』

「なっ・・・そんなことは、ない 」

「何言ってるの、真面目の塊じゃないはじめくん」

動揺したように顔をそらすはじめくんが可愛いくて思わず笑ってしまうと恨ましげにこちらを見てくるはじめくん。


「・・・じゃあ、俺はいくぞ。このままだと土方さん来るだろ?」

「あ、僕も行くよ朝から土方先生になんか会いたくないし」

『あ、龍之介くん!!今日、剣道部くるでしょ?』

龍之介くんのブレザーの袖を引っ張れば龍之介くんは眉間に皺を寄せながらも頷いてくれた。

どうやら、少し前に何の部活にも入る予定がないらしい彼は平助に連れられて剣道部に来たらしい。
最初は剣道部員として勧誘する予定だったらしいが素振りをさせてみれば、驚くほど下手で。
私がいない分のマネージャー仕事を押し付けられていたらしく、最初それを聞いた時には頭があがらなかった

「それにしても、最近俺をコキ使いすぎじゃないか?土方さん」

『唯一手の空いてる男手だからじゃない?』

そう言って見せるも気に入らないのか彼は渋々、といった表情で足を動かし始めた。

なんだか、犬みたいだ。
はじめくんも犬らしいのだが、はじめくんは・・・忠犬、で龍之介くんは、野良犬あたりだろうか。

そう思うとおかしくて口角が上がっていると隣に立っていたはじめくんが不思議そうに首を傾げた。

『あ、はじめくん!千鶴ちゃんと平助きたよ!!』

「・・嗚呼。」

遠くに見える見慣れた姿を指さした瞬間
私は後悔するハメになった

平助が千鶴ちゃんの手を握って一生懸命走ってきている
ちらり、と横を伺ってみるとはじめくんの表情からは何も読み取れなくて
それがなんだか私の気分を重くさせた。

「っ、アウトか?!」
『余裕でアウト、千鶴ちゃん巻きこむのやめなよ平助』
「なっ・・・ごめん千鶴」
「え、ううん!大丈夫だよ平助くん」

旗から見ても幸せ絶頂なカップルにしか見えない彼らをはじめくんはため息をついて、校舎へ行けと指さした。

「まったく、あいつらは毎日恋人に頼るとは情けない・・・」

『あははっ、でもああいうの、ちょっとだけ憧れるかも』

「っ、そうなのか?」

『うん、なんか可愛くて』

「・・・あんたは、その、そういうことをしたいと思う相手が・・・・」

気まずそうに、でも目を合わせてきたはじめくんの目を見て私はなんて答えるか一瞬だけ躊躇した。

だけど

『うん、』

目の前にいるよ、なんて言いたかったけどはじめくんが目を見開いてそうか、と呟くから何となく期待をしてしまうのだ


どうか。

(こちらを振り向かないか、と。)
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