斎藤 長編 | ナノ


何が起こっているんだろう
今私に与えられた選択肢は3つだと思う

1,逃げる
2,逃げる
3,逃げる

だ。とりあえず逃げるしかない。


「ねぇ、お遊戯会でもあったのきみ?」
『総司なんて今すぐ身長縮め』
「なまえ微妙に似合ってんな!」
「藤堂くんって女心わかってないわよね」
『千、あんたの彼氏もわかってないわよ』
「なまえ先輩・・・かわいいです!」

日が沈むのが早くなった季節。
(約一名を除き)久しぶりに見る面子に嬉しくなると同時にタイミングが悪い。
秋の末にあるイベントに備えて店長が「代わり映えがないと面白くないから」なんていう理由で始まったハロウィーン週間。trick or treatなんて言えば首から下げているお菓子が貰えるなんていうイベント付きだったりする。

『総司と平助なんか奢ってよ!』
「はぁ?!俺金ねーし!昨日ゲーセンで金使ったんだよなぁ」
『平助って新八先生路線走りそうだよね、気をつけてね千鶴ちゃん!!』
「確かにね、千鶴ちゃんほかの人探した方がいいんじゃない?はじめくんとか。」
「なっ・・・なにゆえ俺が・・」

そう。さらにちなみに言うと先程から無言を貫いていたはじめくんもいる。隣に越してきてから顔を合わすこともなくて久しぶりに見たはじめくんは特に変わった様子もなく総司の言葉に相変わらずの涼しい表情を崩してうろたえていた。

「えー?だって僕らで彼女がいないのってはじめくんだけだし」
「なっ!何言ってんだよ!!」
「沖田先輩!私は平助くんと別れるつもりは・・・」

意味ありげにいつもの笑みを浮かべてこちらを見ていた総司に平助は騒いでいるし千鶴ちゃんはまゆを下げて困っている・・・可愛い。

「あはははっ、冗談だよ」
「あんたの冗談は質が悪い」
『というか・・・私バイト中なんだけど』
「なまえ、休憩はいつなの?」
『んー、あと15分くらいかな』
「じゃあ、外で待ってるわそれなら問題ないでしょう?」

そう言ってコンビニから出ていく千のしっかり具合に思わず苦笑しながらもなんだかほっ、として暖かい気持ちになった(ちなみに平助は総司にアイスを奢らされていたけれど。)

『お待たせ!・・・ってあれ?みんなは?』
15分経ち休憩時間に入ったところで外へ出てみればそこには見事にはじめくんが一人でいて

「総司たちは用事がある、と言って帰っていった」
何をしに来たんだあいつらは、なんて心の中でツッコむ。はじめくんと私の間に流れる空気はなぜか気まずくて無言が続いた状態となった。


「・・元気なのか?」
『へ?!げ、げんきだよ!』
「そうか・・・それにしては肩が薄い。三食ちゃんとした食事を摂っているのか?」
『あー・・・はは・・』
「・・・摂っていないようだな」

はじめくんのため息が聞こえて次の瞬間頬になにか冷たいものがあたるのを感じた。

『ふぇ、つめた・・・っ!』
「っ、すまない!!」

冷たいそれははじめくんの手でそれを認識した途端はじめくんに触れられているところが急に熱を持ち始める。あの花火大会以来考えないようにしていたけれど、やっぱりはじめくんが好きだなぁなんて思っているとはじめくんの手が私の頬から離れた。

「あまり煮詰めすぎるな、俺とて手伝うくらい出来る」
『何言ってんの、来週試合でしょ?』
「っ、覚えていたのか・・・」
『うん、一応スケジュールは頭に入ってた』
「・・・なまえ。あんたは・・・」

そう言って言葉を切ったはじめくんは切なそうに顔を歪めていて。

「あんたは、俺のことが信用できないか?」

『っ、そんなことないよ?』

「それなら、頼れ。あんたが困っているときは俺が助ける。 」

こうなった時のはじめくんは総司並に頑固だ。真っ直ぐな目力に思わず目をそむけると再度私の頬にはじめくんの手が触れる。

「なまえ」
『・・・あのね、今翔と雫私の家で預かってて』

「ああ・・・?」
『ゆかりちゃんとか、トシ兄とか気にかけてはくれてるんだけどはじめくんにも時々でいいから気にかけて欲しいかなぁ・・・って』

そこまで言うとはじめくんは綺麗な顔で微笑んでくれていて

「承知した。」

その四文字だけなのに私の心の中にはなんだか暖かくなって頬が緩む。

「・・・やっと笑ったな。」
『え・・?』
「否、あんたが笑えていない様に感じた故・・」
『ふふ、ありがとうはじめくんっ』

私の変化に気付いてくれて、心配してくれて
それだけで嬉しくなる私は単純だなぁ、なんて心の中で苦笑する


『あ、休憩終わる時間・・・』
「っ!すまない、つきあわせてしまった・・・」
『大丈夫だから、ね?』

大丈夫だよ、って言うように笑って見せるとはじめくんもなんだか嬉しそうに微笑み返してくれて

「あ、なまえ先輩斎藤先輩!」
『あれ、千鶴ちゃん?』
「・・・雪村、どうかしたか?」

声のする方を見れば慌てた様子で千鶴ちゃんがぱたぱたとこちらにかけよってくる。

「あの、ここら辺に小さな桜の花びらのモチーフのストラップ見かけませんでしたか?」

『見てないけど・・・どうかした?』
「あの、無くしちゃって・・」

眉を下げて困っている可愛い後輩を放っておくわけにはいかない。先輩に事情を説明して一緒に探そうとするとそれを制止するかのようにはじめくんが口を開く。

「俺が雪村と探す故にあんたは仕事にもどれ。」
『え、でも・・・っ!』

そういったところではじめくんの変化に気づく。私に向ける視線が少しだけだけど変わっていてなんだか身体の中が凍りついて動けなくなる

「雪村、探すぞ」
「あ、はいっ!」

嗚呼きっと。はじめくんの秘密を知ってしまった気がしてなんだか苦い気持になる。

だって

きっと。

(彼も叶わない恋をしてるから )

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