何が起こっているのだろう
目の前には私服姿のはじめくん。
彼にしては珍しく目を見開き硬直していて手には・・・あ!引越しそば!!引越しそば持ってる!!
「はじめだ!」
「はじめちゃん・・・?」
ちびっ子二人が嬉しそうにするなか、はじめくんは未だに固まっていた。
何故こんな状況になったか
事は四時間前に遡る____
剣道部が休みの朝ゴミ出しに行くとマンションの前に、引越し業者が来ているのを見かけて誰か越してくるのか、とぼんやりと思った。
そしてゴミ出しをして部屋に戻ると引越し業者が隣の部屋に荷物を運んでいる
となりに越してくるのか、と思いながら見ていると家具からして男の人らしい。
黒と白ばかりのそれは引越し業者の手によって部屋に運ばれていく。
どんな人だろう、と楽しみにしながら自分の家へと戻っていった。
お昼頃になりお昼の献立をどうするかと悩んでいると翔がハンバーグを食べたいと言い出してハンバーグを作ることになる。
『よし、作るか!』
と、活き込み昼食を作り終えたところでインターホンがなった。・・・誰だろう?なんて思いながら玄関を開けると見覚えのある青色を含んだ綺麗な黒髪。
「今日から隣に越してきました、斎藤です・・よろしくおねがいしま・・・す・・・」
目を伏せながら早口で挨拶をしようとしたはじめくんの目がこちらを向く。
『や、やっほー!はじめくん!』
「はじめだ!」
「はじめちゃん・・・?」
そして話は最初へ戻る。
ぽかん、としたはじめくんは未だに状況を掴めていないらしく彼にしては珍しくあたふたとしている。
「あんたは、ここに住んでいたのか」
『あー。はじめくん、私の家来たことないもんね!』
「鳴呼・・・」
「はじめ、あそべ!!」
『翔ー、はじめくん忙しそうだから駄目。』
「っ、否、忙しくはないが・・・・!」
「なまえちゃん、これからでかけるんだろ?なら、おれ、はじめといる!」
こうなった時の翔はもうだめだ。雫も止めに入らないということは、そういうことなのだろう。
「・・・出掛けるのか?」
『あー、うん・・・ちょっと用事があってね』
「出かけるのに幼児二人家に置いておくのは危ないだろう・・俺でよければ、預かるが」
『・・・本当?』
思わずはじめくんの顔を見ると、交わる視線。思わずどきっ、と胸がなる。
「嗚呼。問題はない。」
『それなら、お願いしようかな・・・そろそろ、』
「斎藤・・・?ここで何してんだ?」
『あ、トシ兄!』
その時のはじめくんの表情は最早言うまでもなかった。
「ほぅ、つまり偶然隣の部屋に越してきたってか?」
『何疑ってんのトシ兄、はじめくん私の家知らなかったのに』
「大体この時期になんで引越ししてるんだよ?何かあったのか斎藤」
はじめくんを見るトシ兄の目は教師の目で、固まっていたはじめくんは少し安心したように口を開きはじめた。
「・・・否、なにもありませんがただ、俺が一人暮らしを希望しただけです。」
「・・・・まっ、お前なら問題ねぇだろ。」
ため息をつきながら腕を組むトシ兄はタバコをくわえる。
「ちび達、てめぇに任せた。夜には俺が取りに来るからよ」
「はい、承知しました。」
なんだかんだ言ってトシ兄は甘い。思わず口が緩むとトシ兄の手がこちらに伸びてきた。
『わっ・・・!』
「ほら、とっとと行くぞ」
『はーい!』
乱暴に私の頭を撫でてトシ兄は歩き出していく。照れ隠しなのか素直じゃないのか、私ははじめくんに手を振ってトシ兄の車に乗ったのだった
隣人さん。(隣に好きな人が越してきました。)
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