斎藤 長編 | ナノ


『はじめくん・・・』

「・・・なんだ?」
『迷・・・「言われずとも分かっている。」

なんだ、この状況は。

俺の目の前に見える女は何故か楽しそうに迷子迷子と連発している
そして、なまえの言う通り俺たちは総司たちとはぐれてしまったらしい

「総司たちを探さなくてはな・・・」
『えー、でもあの二組カップル同士で回りたいんじゃない?』
「・・・嗚呼。」

そういうことか。
納得したことが表情に出たのか、なまえは更に面白そうな表情をしながら俺の隣を楽しそうに歩いている

『まっ、気を使ってわたし達も誘ってくれるところあの子ららしいよね』

「・・・そうだな。」

『あ、はじめくん!わたしかき氷食べたい!』

「・・・嗚呼。」

『・・はじめくん?』

鈍感なのか、鋭いのか・・・
自分の事になると鈍感だが、他人の恋路には鋭い者がいると聞いたことがあるがまさか目の前にいるとは。

『・・・・はじめくん?はじめくーん?』

大体、なまえは無防備すぎる。先程から何人の男が彼女をちらちらと見ているというのに一切気づく気配もない。わざとなのか?

『・・・はーちゃん・・・』
「っ、はーちゃ・・・・?!」
『あ、やっと反応した。』

・・・・いや、こいつは完全に無自覚らしい。






『はじめくん?はじめくーん?』

・・・何回もいうのに気付いてくれない。はじめくんの思考タイムだ。
何言っても気付かれないかな?という疑問から生まれる好奇心。

『はじめたん?はーくん?』

・・・反応がない


『はーちゃん?』

「っ、はーちゃ・・?!」

『あ、やっと反応した。』

若干停止して戸惑ったあとに溜息をつくはーちゃん基はじめくん。

『はーちゃん・・・』
「・・・なまえ、その呼び方をやめろ。」
『はーちゃんはーちゃん』
「っ・・・人の話を聞いているのか?」
『・・・なら、はじめ?』

ほんの冗談のつもりで言った言葉
だけど、はじめくんから小言は返されなくて不思議に思い顔を見ると

・・・真っ赤。

『・・・え、はじめくん?』

「・・・あんたは、何もわかってない」

『・・・え?』

真っ赤な顔のまま私から顔をそむける前のはじめくんの目は少し切なそうでなんでかこっちが切なくなる。

「・・・かき氷、買いに行くのだろう?」

『・・・へ?あ、うん!』

一瞬目を離しただけなのにはじめくんの顔はいつもの読めない表情に戻っていた。
・・・写メ撮ればよかった!!

なんて考えていると視界の端に見える掌。

『・・・?』
「・・あんたは、そそっかしい。」

そう言って照れくさそうに顔をそむけるはしめくん。あ、照れてる!はじめくんのデレスキルだ!シャッターチャンスだ!

「・・・なにゆえ携帯を取り出した」
『・・・シャッターチャンス・・・』

「なまえ・・・」

はじめくん。あきれ顔はやめて。

「・・・早く行くぞ、始まる。」


半ば強引に私の手をとって、歩き出すはじめくんの耳は後ろから見てもわかるくらい真っ赤で。

・・・・なんか、こそばゆい気持になる。

前手を繋いだ時なんて特に意識もしなかったけど、おとこの人の手特有の骨ばった感じで
・・・手汗かきそう。




予定通りかき氷を買い、向かった先は小さな神社。

『・・・?』

「いや、その・・・ここなら、人が少ない上に穴場だと聞いてな・・・」

『なるほど、ナイスはじめくん。』

笑顔でピースサインを作るとはじめくんの表情が少しだけ緩んだ。

『はじめくん』

「なんだ?」

『ありがとね?』

「っ・・・なにゆえ。」

『花火大会、付き合ってくれて』

にへら、と笑って見せるとそんなことかと言いたそうにはじめくんの目が丸くなっていた。

「俺とて・・・楽しかった故に、礼を言うのはこっちも、だな」

『あははっ、来年はお互い彼氏彼女出来てたらいいね!』

いつもの冗談混じりに言うとはじめくんの目がまた丸くなって、すぐに真面目な顔つきになっていた。

「そうだな、来年は・・・」

『・・・そう言う人いるんだ?』

「・・・嗚呼。」

なんだ、この胸の痛み。

自分で聞いたことなのに、胸が壊れそうになるくらい痛い。

なんで?

・・・・ああ、と気づいた頃にはもう遅くていつの間にか花火があがっていた

「なまえ?」

『・・・あ、大きいの打ち上がったね!』

そして、握られていた手を私は解いた。

暗転。

(好きって切ない。)
prev next



- ナノ -