斎藤 長編 | ナノ


昔から、白色は苦手だ。

確かにあの人はそう呟いていた

『・・・今日ね、花火大会があるんだよ。ここから、見れるかな?』

そう呟いた言葉は白い部屋にぽつん、と響くだけ





「なまえ、あんた遅い!」
『ごめん、千!寝坊しちゃった!』
「なまえ先輩・・・」

暑い夏の昼下がり集まったのは千鶴ちゃんの家。
二人は既に浴衣に着替えていて千鶴ちゃんは眉を下げるのと対照的に千の眉はあがっている

『千ー、許して?』
「・・もうっ、これだからなまえは・・・」

ため息ともとれるような息を吐いた後に千は私が手に持っていた浴衣が入った紙袋を手に取る

「さっさとやるわよ、なまえ!」
『了解!』

そういった後の千の行動はとてつもなく、早かった(千鶴ちゃん曰くこれこそ光の速さというくらい)

『先輩・・可愛いです!』
着付け後、千鶴ちゃんは目を輝かせながら
きゃっきゃと騒いでいる
可愛いのは、千鶴ちゃん君だよ・・!!

「ふふ、中々似合ってるじゃない」
白地に紫の花弁が描かれている私の浴衣を見て満足そうに微笑む千。

それにしても流石は呉服屋の娘だ
着付けなんて、私も千鶴ちゃんでさえも出来ないもの。









「ねぇ、なまえちゃん。君のせいで遅刻したんだよね?何か奢ってよ」
『だが断る 』

待ち合わせの時間に5分遅れての到着で既に剣道部の男子たちは集まっていて
相変わらずのイケメン具合に花火大会に来ている浴衣女子たちの格好の餌食となっていた。

「僕、リンゴ飴でいいよ」
『・・・総司?総司くん?私の言葉聞いてたよね?ねぇ』
「なぁに?僕に文句でもあるわけ?」
『ひぃ・・・』

黒いオーラ怖い・・・!!
思わず後ろに下がるとドンっ、と誰かにぶつかる感覚。

『ごめんなさ・・・っ、あ。 』
「総司、これ以上なまえを困らせるな」

はじめくんが崩れかけた私の体制を支えてくれて総司にむかって睨んでいた。

「あははっ、はじめくん顔が土方先生みたいになってるよ?」
「・・黙れ、総司。」

・・・・なんか、はじめくん不機嫌?
それとは対照的に総司はとても上機嫌そうにはじめくんをみてクスクスと笑みを浮かべている

「不機嫌なんだから嫌になるよね・・ね?なまえちゃん」

・・・・何故私に振る。


『あー、はじめくん?』

「・・なんだ?」

『なんか怒らせた、かな?』

「っ・・・そういうわけではない・・・」

目をそらして口元に手を当てて思考を停止するはじめくん。でた、思考タイムが。
はじめくんのこの思考タイムだけは未だに慣れないんだ。
・・・どうしよう。とちらり、と目を総司の方へ逸らすと総司はもうすでに飽きたのか。千の方へ向かっていた。
「・・・なまえ。」

『んー?』

「にあっている・・・」

『・・・は?』

何を唐突に言い出すんだろうこのイケメンは。
というか前にも似たような流れがあった気がする。

「いや、その・・・浴衣・・」
『・・・本当?』
こてん、と首をかしげるとはじめくんが頷きながら笑みを浮かべていた。

『っ?!はじめくんが笑った!!』
「俺とて笑うことはある。」
『はじめくん、絶対笑ってた方がいいのに・・・』

そうつぶやくとはじめくんがためいきをひとつついた。

「あんたは、総司のような、俺を想像できるのか?」
『・・・・いや、できない。』
「だろうな、俺とてだ。」

苦笑いし合う二人。

『あれ、そういえば千鶴ちゃんたちは?』
「そこにいたはずだが・・・?」

『・・・・いない。』
「っ・・・まさか・・・」


そして迷子。

(迷子?!ねぇ、はじめくんが迷子?!)
(落ち着け、あんたも迷子だ。)

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