斎藤 長編 | ナノ


「あ、これかわいい!」
「素敵!」
「千鶴ちゃん、これ似合うんじゃない?」

夏の午後
午前だけだった部活が終わってから千鶴ちゃんと千とショッピングモールへ買い物へ来ている訳で
楽しいんだけど・・・

『・・・気配隠してるつもりかな?』

100m先に、総司と平助・・・まさかのはじめくん。

千達は気づいてないみたいだけど
ちゃっかり、女の子達ざわついてるし・・

「なまえ、さっきからどうしたの?」
『・・・んー?スパイ観察?』
「・・・スパイ、ですか?」

きょとん、とする千鶴ちゃん
可愛いなぁ、もう!

「不思議発言は良いから、千鶴ちゃんどっちが似合うか選んでくれない?」

そう言って差し出してきたのは花柄のシンプルなデザインのワンピースと薄ピンクのトップスに白いふわふわなスカート

『・・・千鶴ちゃんならどっちでもいける』
「それなのよね」
『可愛いもんね、千鶴ちゃん』
千鶴ちゃんの頭をよしよしと撫でると慌てる千鶴ちゃん

この生き物、可愛すぎる・・・

「んー、でもワンピースのほうが似合うかしら?」
「そ、そうですか・・?」
『平助に聞いてみたらいいのに』
「それじゃ、意味ないじゃない!藤堂くんとのデートの服装なのに 」

・・・いや、ばっちり本人見てるんだけどね。

いつの間にか平助と千鶴ちゃんがくっついててとうとうマネージャーで唯一私だけフリーになったらしい
正直実感無いし、どうでもいいんだけど
総司に哀れまれた目線を向けられたのだけは心外だった
酷い!

「・・なまえ先輩?」
『・・・みんな彼氏出来てくよね』

呟いた一言に苦笑する千と千鶴ちゃん

「なまえ先輩は好きな人とかいないんですか?」

こてん、と可愛らしく首を傾げる千鶴ちゃん
軽く目が輝いているような気がするが
やはり、彼女も女子。ガールズトークが好きな年齢なのだ。

好きな人、か・・・

『・・・・んー?どうなのかな?』

「なに、その返事 」

『みんなすき』

「・・・斎藤くんも大変ね」

なんでそこではじめくんが出てくるの?
頭にはてなを浮かべていると千が大きな溜息をついた

「それより、千鶴ちゃんワンピースの方がいいわよ!」
『うん、千鶴ちゃんは何着ても似合うと思うけど』
「あ、ありがとうございます・・」
照れくさそうに笑いながらワンピースを持ってレジに向かう千鶴ちゃんを目で追いながら再度はじめくん達の方を盗み見る

・・・・あ、総司と目合った
あれ、にこって笑ってる。
なんか、笑みが黒いんだけど・・
あ、総司達がそこにいるのばらしたら後で覚えておきなよ?的な?
怖いよ総司・・・・

「なまえ、本当にさっきからどこ見てるの?」
『・・・んー、地獄?』

あ、千本格的に呆れた目、やめて傷つく

「お待たせしました!」
「それじゃ次行きましょうか」

・・・次?

千が話が飲み込めなくてきょとんとしている私の手を引いて向かった先には浴衣のコーナー
『・・・浴衣?』

「あれ、言ってなかったかしら?花火大会」

可愛らしくとぼけた様子の千が指さした先には花火大会のポスター

『いくの?』
「いくの?って、なまえもいくでしょ?」

『いく!!』

「千鶴ちゃん、浴衣小さくなったみたいだし買う予定なんだけど・・・なまえは?」
『あー、んー、実家帰ればある、かな』

実家なんて、もう長いこと帰ってない
高校入学して何回帰ったっけ?

「へぇ・・それなら、千鶴ちゃんのだけでいいみたいね」
「千先輩、なまえ先輩!お願いいたします!」

『ふふっ、千鶴ちゃんは絶対ピンク!!』

千鶴ちゃん、本当に可愛いなぁ
なんてぎゅー、と抱きつくと後ろから平助の声が聞こえた気がした
・・馬鹿。

「・・今なんだか平助くんの声聞こえませんでしたか?」
『え・・・き、気のせいじゃないかな?』

千鶴ちゃんの浴衣を選び終えた頃既に空が茜色に染まっていた

「千鶴ちゃん、結構買ったわね」
「はい、ありがとうございました!」

にこにこと笑う千鶴ちゃんに満足そうな千

そんな二人を見れただけでも来た意味はあるかな?

「ねぇ、女の子三人?」
「お兄さんたちと遊ばない?」

『うわ・・・』
おっと、思わず声に出てしまった
所謂、ナンパってやつなのだろうか
にやにやと気持ち悪い二人連れの男の子

「薄桜学園の生徒だよね?」
『・・・千、千鶴ちゃん行こ』
「そうね、なまえ」

さっきから腰が抜けている千鶴ちゃんの手を優しく引っ張って行こうとすると
邪魔する男二人。

「千鶴ちゃん、千ちゃんなまえちゃんっていうんだ?」

『きも・・』
あ。本音が・・・
つぶやくような小さな声だったけど
ナンパ野郎の片割れには聞こえていたらしくてわざとらしく作られたような笑が少しこわばる

「早く行こうよ?」
そう言って腕を掴む男。

離せ!!

『あー、もう離してくれません?』

「えー、ちょっとだけだってー」

無理矢理引っ張りはじめた男ともう一人に限っては千鶴ちゃんの腕を掴み始めた

『離しなさいって・・・言ってるんでしょうが!!!』

放った回し蹴りは綺麗に男の顔に命中

「は、?!なにしやがんだこの女!!」
『離せって言ってんのに離さないのが悪いと思いますけど?』
「黙れこの・・・っ」
殴りかかってくる男に思わず身を固めると
急に視界が暗くなって暖かい温もりを感じる

「・・・何をする気だ?」
「そろそろやめておこうか、お兄さん」
「千鶴、無事か?」

あぁ、早くこの人らに助け求めればよかった

よくみてみると視界が真っ暗になったのは一くんの背中で

「なんだよ、てめぇら?!」
「何って・・・この子の彼氏だけど」

ちゃっかりと千の腰に手を回して微笑む総司の顔は・・・怖い。

「おまえら、早くここ立ち去った方がいいぜ?」

ちょっと同情的な笑みを浮かべながら警告してる平助

そして先程から無言のはじめくんの顔はみえないけどオーラが怖い。

「ちっ・・・おい、行こうぜ」
「あ、ああ・・・・」

気迫に負けたのかナンパ男たちは、渋々と帰っていく

「・・・・大丈夫か千鶴?!」
「へ、平助くん・・・」

余程怖かったのか、ぺたんと座る千鶴ちゃんを抱えるように支える平助

「でもいいものみれたよね、なまえちゃんの回し蹴り」
けらけらとわらう総司とそれを諌めるように睨むはじめくん

『昔から運動神経よかったから・・』
「・・・・あんたは女だろう」

呆れるようにため息をつくはじめくんにぺろ、と舌を出して誤魔化そうとすると余計に睨まれた


『・・・ごめんなさい。』
「・・・怪我はないのか?」
『え?』

こてん、と首をかしげるときまずそうに目をそむけるはじめくん

・・・心配してくれてるのかな?

『ふふ、ありがと』
「・・・なっ、俺は別になにも・・・」
照れくさいのか目元が赤く染まっているはじめくんが可愛いと感じて思わず頬が緩んでしまう

「ねぇ、お取り込み中悪いけどそろそろ帰らない?」

「なっ・・・お取り込み中・・・」

「ほら、早く帰るよ」
ちゃっかりと千の手を握って帰りを促す総司の言葉に私たちと平助千鶴ちゃんもあるきだす

・・・・なんだか、今日は厄日だったな
そう思いながら隣を歩くはじめくんを盗み見ると目があった

『っ・・・』

軽く微笑む彼にしては珍しい笑みに思わず呼吸がとまりそうになる

「なまえ、どうかしたか・・・?」

『な、なんでもないっ!』

そういって不思議そうにしているはじめくんから目をそらしていそいで千のもとへ走る

本当に今日は厄日だ。


心音。

(この気持ちは、なに?)
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