斎藤 長編 | ナノ


「なまえ、斎藤くん、彼女いるかも。」

『は?』

思わず間抜けな声が出てしまった

一くんと出掛けてから2日後の学校の昼休み。
いつものように千とご飯を食べているとサラッと言った一言に箸を落としそうになった。

「だから、彼女いるかもって。」
『え、誰?!』
思わず千の肩を掴むと総司みたいな笑みを浮かべて携帯をいじりだした
・・・こいつ、総司とくっついてから似てきたな・・・。

「この人よ」
千が携帯の画面を出したのを見てみると綺麗な黒髪の女の人。
一くんと腕をくんで二日前に一くんといったショッピングモールを歩いている写真だった。
一くん本人もまんざらでもなさそうな顔してる
『・・美人・・。』
一くんが惚れるのも無理はないだろう
おしゃれをしたり(半ば無理やりだったけれど)ストラップを迷った挙句にカバンに付けて一人ですこし浮かれてた自分が急に馬鹿みたいに思えてきた。
思わずうつぶせてしまうと無言で頭をなでられる感触があって
千が気を遣ってくれているのが痛いほど伝わってきた

「まだ彼女って決まったわけじゃないし、ね?」
いやいや、腕くんでる時点でもうほぼ彼女だよ・・・、というかそういうなら見せないで良かったのに、と口に出す気にもなれないで無言になってしまう。
「なに、珍しく体調でも悪いの?なまえちゃん」
ただ眠ろうとしてるだけだと思って近づいてきたらしい総司の声が聞こえて、んー、とだけ反応する
「総司くん、聞きたいことがあるんだけど・・・」
千がそう切り出すともう一つ足音が聞こえた
「なまえ、何かあったのか?」
・・・現れた。今一番聞きたくない人の声だ。
「体調が悪いのなら保健室に行くことをおすすめするが・・・」
『大丈夫だよ、眠かっただけ』
心配な一くんの声色に耐えれなくて重い身体を起き上がらせて作り笑いを浮かべると一くんの目が少しだけ見開いた気がした

「あははっ、なまえちゃん今更成長期?」
『総司、身長縮め。』
「なまえ、身長伸びるといいわね」
『え、なんで千まで便乗してくるの?ねぇ、いじめ?』
空気を読んでくれたのか二人がうまくフォローしてくれたおかげで気まずい空気は逃れることができた
身長の話をしてきたのは悪意しか感じられないけど。

やる気のない怠い午後の授業を終え急いで教室を出る。一くんに声をかけられたけど気づかなかったフリをした


「みょうじ!」
『あ?』
一くんのことを考えてモヤモヤしてる時に声をかけられていらつきながら振り向くとトシ兄がいた
「あ?じゃねぇだろ」
『なんですか土方先生。今回はどのような雑用なんですか土方せ!ん!せ!い!!』
「なんで土方先生、強調してんだよ気味悪ぃ」
ため息をつくトシ兄はネクタイを緩めながら真っ直ぐにこっちを見る
「用具室にある防具、持ってきといてくれねぇか?」
『あー、はいはい。了解です』
ごめんねトシ兄。可愛げないみたいな目で見なくていいよ自分が一番分かってるから

ため息をひとつついて歩きだそうとするとトシ兄がぐしゃぐしゃと頭を撫でてくれた

「無理すんなよ」
『・・・ありがと、トシ兄』
うすく微笑んだトシ兄をみて少しだけ元気が出てきて用具室に行くと予想以上に用具がたくさんあることに気づく。

『う、わ・・まじか・・』
流石鬼顧問。
一度に持っていける位の量ではあるから一気に持ち上げるとふらふらと足元がおぼつかなくて傍から見たら危なっかしく見えるらしくクラスの男子が手伝おうか?と申し出てくれたけどプライドが邪魔をしてやんわりと断った。

あとこの廊下を渡れば剣道場だ、そう思って気合を入れる
「あのー・・」
『はいっ?!』
急にかけられた声に驚いてきょろきょろすると、多分後ろから声がした

「それ、手伝いましょうか?私、剣道場に用事ありますし・・・」
『・・・お願いしてもいいですか?』
剣道場に用事があるなら頼もう
そう思って見えない声の主に頼むと急に荷物が軽くなってよろけた
視界を邪魔していた荷物が消えて見えたのは綺麗な黒髪の女の人。
「ふふっ、やっと顔、見れた」
そう言って笑う女の人が綺麗で、思わず見とれてしまう
そして、一くんと腕を組んで歩いてた人だ、と思い出して思わず胸がざわついた。
剣道場に来た、という事は目的は間違いなく一くんだろう。
『あ、の・・・一、斎藤君に用事があるんですか?』
思い切って聞くと少しだけ目を見開いたその人は笑顔で頷いた

出来れば会いたくなかったなぁ、なんて思いながらいっしょに剣道場まで歩く
普通は短い廊下が今日はやけに長く感じた

「一の、お友達?」
『あ、はい・・・同じクラスのみょうじなまえです』
一って呼び捨てにしてるんだ、いや、彼女なら当たり前なんだろうけど・・
「こんな可愛い子が傍にいるのね、一」
小声でつぶやかれた一言にいそいで否定しようとすると後ろから足音が聞こえた

「・・・勝。」
「あ、一!」
振り返るとなぜか不機嫌そうな一くんの顔があった
「あんたはここで何をしている?」
「何って、見学?」
「あんたは大学生だろう・・・」
年上が好みだったんだ一くん・・・
なんてことをぼんやりと思っていると抱えていた荷物が消えた
「俺が持つ」
『え?』
自然な動作で荷物を持ってくれた一くんの気持ちは嬉しいのだが、一くんの彼女・・・勝さんも荷物持ってますよ?と、頭にはてなを浮かべていると勝さんが急ににやにやとし始めた

「へぇ・・一がねぇ・・」
「なんだ」
「別にー?」

仲がいいんだなぁ、と見ているとなぜか少しだけ胸が傷む。
やっと、剣道場につくと一くんに軽くお礼を言ってすぐ更衣室に逃げると、更衣室には千鶴ちゃんと千がいてなんだかほっとしてしまった。
「なまえ先輩お疲れ様です!」
そう言ってニコニコとする千鶴ちゃんに癒されつつもトシ兄の声が聞こえて慌てて着替えを済ます

・・・勝さん、最後までいるのかな?

更衣をすませて剣道場に行くと既に練習が始まっていて勝さんも勿論いた
「あ、なまえちゃん・・だっけ?ここ、座らない?」
綺麗な笑みを浮かべながらぽんぽんと叩いたところは勝さんの隣
断るのも不自然な気がして素直に隣に座ると満足そうに笑って視線を練習風景にもどした
勝さんの手には・・・カメラ。

「あぁ、私こう見えてもカメラマン志望なの」
視線に気づいたらしい勝さんがくす、と笑うと何回かシャッターを切った。なんだか様になっていてかっこいい
『勝さんって、一くんのことよく撮るんですか?』
「んー、あいつ、見た目だけは良いからね。」
くすくすと笑いながらシャッターを押す勝さんの横顔はやっぱり、綺麗だなぁ・・と思ってしまう。
「ふふっ、一の写真、見てみる?」
『はいっ!!』
おっと、思わず即答してしまった

カメラから目を離して鞄の中を漁った勝さんは何枚かの写真を手にしていた

「これが最近の写真かなぁ」
差し出された一枚の写真
眼鏡姿の一くんの横顔。うん、普通にイケメン。
次々と出てくる写真を見ていると一枚の写真が目に付いた

『これ・・』
小さな男の子が女の子の服装をさせられて少しむくれている表情の写真。

「あぁ、これ?私が最初に撮った写真」

『そんな前から一くんと知り合いなんですか?』
少しびっくりして質問すると勝さんは驚いた表情で口を開こうとした。

だけど勝さんの言葉より先に写真を取る手が視界にはいる

「・・・見たか?」
『一くん・・・あはは』
ばっちりと脳内に焼き付けましたよ
「あ、一。それ握りつぶさないでよ?必要なんだから」
「この写真が何の役に立つ?」
「総司くんに売る予定なのよ、それ」
さらっと言う勝さんに有り得ない、と言う目を向けながらも一くんはため息をついて写真を勝さんに返すと勝さんは上機嫌で鼻歌まで歌い始めた

「大体いつまでここに居座るつもりだ勝」
「土方先生から許可はとってるわよ?」
仲良さそうに言い争う二人を見て少し胸が痛む
・・・何でだ?
訳が分らない感情に首を傾げる

「ねぇ、なまえちゃんって彼氏いるの?」
急にふられた話題にぽかん、となるも一くんもじぃ、と見ていた

『いませんよ』
「もったいない、こんな可愛い子・・・なまえちゃんその気になれば可愛いからすぐに彼氏できるわよ!」
少しだけ大きな声で言った一言に一くんが勝さんを睨んでいた・・・きがした。

『あ、でも一くんと勝さんみたいなカップル理想です』
その気持ちに嘘はない。だってお似合いだと思うし仲がいいし・・・傍から見てもにあっていると素直に思う。

そう思って二人を見ると二人ともきょとん、としていた。
「なまえ、あんたはかん・・」
「なまえいるか?」
振り返るとトシ兄が何か怒った表情で剣道場のドアをあけて立っていた
勝さんに軽くお辞儀をしてからトシ兄の元へ行く
『なんか用?』
「お前、この進路希望最提出だ」
目の前に差し出された紙をみれば今朝適当に書いた進路希望。将来の夢:海賊王なんて書いてある今朝のニュースで俺は海賊王になる!って言ってたから適当に書いただけだ、怒るなら今朝のニュースに怒って!

「今時海賊王にはなれねぇよ、これ書き終えるまで部活には顔出すな」
二人を見たくなかったからちょうどいいか、と思いながら制服に着替えて教室でぼーっとしながら進路希望を書いているとあっという間に下校時間が迫っていた。
怒られない範囲で適当に書いた進路希望をトシ兄に提出してOKを貰い荷物を取りに教室に帰ると、一くんの姿があった

『あれ、一くん?』
「なまえ・・・終わったのか?」

声をかけると薄らと笑みを浮かべながら振り向いた一くんはやっぱりイケメンだな、なんてあほなことを一人で納得してしまう。

『うん、はじめくんは忘れ物?』
「いや、あんたが誤解しているようなので待っていた・・・」
『・・誤解?』
首を傾げると一くんがため息をついてまっすぐ此方を向く。
「・・・・勝と俺は、恋人ではない。姉弟だ。」
『・・・は?』
今なんと?え?いやいや、それが本当ならめちゃくちゃ恥ずかしい勘違いをしてたということじゃないか!!
ぽかん、としていると一くんは苦笑いを浮かべながら頭をぽんぽんと撫でてくれた
『なんだ』
「あんたが午後からおかしかったのはこの件についてだったのか?」
こくり、と頷くとやっぱりな、とでも言いたそうにため息をつかれた
「なまえ、帰るぞ下校時間を過ぎている」
『はーい、って過ぎてるってトシ兄に怒られるじゃん!!』
「・・・謝るしかないだろう」

歩き始めた一くんを小走りで追いかけとなりに並ぶと一くんの鞄についてるストラップ。
『これ・・』
「ここ以外、付ける場所が思いつかなくてな・・・」
照れくさそうに目をそむける一くんをみて頬が緩んだ

胸がずっとドキドキと音を立てていたりいたんだりした理由にはわからなかったけど。

一くんの彼女。

(そう言えば、勝さんとショッピングモールでデートしてたって話題になってたよ)
(で・・?!あれは、勝にこの間あんたと出かけたのがバレて、だな・・・)
(・・・なんかごめんね)
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