斎藤 長編 | ナノ


『あ、一くんここよっていい?』

そう言って指さしたのは好きな雑貨屋。
可愛い雑貨いっぱいあるんだよね。
「ああ、別に構わないが・・」
と、返事してくれたから中に入っていろいろ見ることにしてみると一くんがぴんくの可愛らしいうさぎのイラストが描かれたコップを持っているのが似合わなくて思わず吹いてしまった

「っ、そんなに笑うななまえ」
『あははっ・・・だって一くんがうさぎのコップって!!』
「確かに、似合わぬが・・・」
一くんが、む、とするのが可愛くて無意識に頭をわしゃわしゃと撫でると一くんが驚いた表情でぽかん、としていた
『あ、ごめん無意識』
「あ、ああ・・いや、大丈夫だ。」
大丈夫って言ってるくせに顔、真っ赤ですよ一くん。
なんだか気まずくなって沈黙が続いてしまう

『あ・・』
「・・どうかしたか?」
ぱたぱたと走っていく先には可愛いアクセサリーが沢山置いてあって思わず目が輝くのが自分でもわかった
「あんたの、学校につけてくるようなものと似ているな」
そりゃそうでしょうよ、ここで買ってるもの。
シンプルなシルバーアクセサリーが結構好きなんだよね。学校につけていってもそんなにばれないし(一くんと薫にはバレてるけど )

「・・・こういう類は、つける機会がない故、よくわからぬな。」

『あははっ、そんなイメージするよ』
ジャラジャラとアクセサリーをつける一くん、ちょっと見たいかも。勿論、面白いという意味で、だ。

想像して少し笑いながらアクセサリーコーナーを見ていく

『あ、これ可愛い』
見つけたのは
色のついた石の下に小さい十字架がついているストラップ

いろんな色の石があって赤、青、黄色、ピンク・・・どれも綺麗で可愛い

「・・・気に入ったのか?」
『うん、可愛い!』
「あんたは、桃色のイメージ、だな」
そう言ってピンクの石のストラップを手に持つと一くんは無言でレジに歩いていった
『え、一くんピンクのストラップどこにつけるの?!』
「あんたは、あほなのか? 」
ため息をつかれて少しショックだったけれど
無言で差し出されている袋を受け取るけれどなんだか照れくさくて少しだけ小声でお礼を言った

『・・・一くんは青だね』
「ああ、青は好き・・だな」
『ちょっと待ってて』
急いで青色のストラップをレジに持っていって会計をしてくると一くんが目を丸くさせて驚いていた

『はい、お礼!』
「そういうつもりで、買ったわけではない故・・・」
『もう買っちゃったから受け取ってよ、ね?』

なんだかさっきよりも照れくさくなってきて、半ば無理やりに押し付けると小さな声でお礼を言ってくれた。

『・・・そろそろ用具届いたかな?』

なんとなく気まずい雰囲気になって話題をそらしながら時計を見ると16時前

流石に、もう来ているだろう

これで来てなかったらトシ兄にクレームつけよう。スポーツ用品店は悪くないよ。うん!

「ああ、そろそろむかうか・・・」

薄く微笑んで頷く一くんに微笑み返して歩き出すと一くんのスマホが鳴った。

取り出して操作していた一くんは暫くすると体が硬直していた

『一くんー?おーい?』

一応声をかけてみるけど、フリーズした一くんには届かないらしい
『・・・一くん?』
「なまえ、頼みがある。」
大真面目な顔をした一くんを見て少し身構えると一くんが気まずそうに口を開いたのだった


『・・・ぷっ、あははっ』
「笑うな」
『だって、あんな大真面目な顔してたのに』
一くんの“頼み事 ”やらは、手をつないでほしい、ということだった
元凶は、先ほどのフリーズの原因は総司のメールにあるらしい。
朝に電話が来た時に“なまえちゃんと、手くらい繋いでね?”と笑い声とともに言われたのを無視すると脅迫文並のメールが来た、とため息をついていた

『そんなに知られると困ること書かれてたの?』
少しだけ気になってくすくすと笑いながら首を傾げると一くんがそわそわとして顔を背けられた

『ごめんって、一くん』
「・・・写真を、だな」

写真?と、首を傾げる
「・・・小さい頃に、姉に女装をさせられて写真を撮られて、だな・・その写真を以前総司が俺の家に来た時に、携帯で撮ったのを、未だに保存しているらしい・・・」

疲れたようにため息をついた一くんをみて少し同情をしてしまった。
総司の悪戯好きには私もこの一年間で嫌と言うほど苦労させられてきたから苦労はわかる。

『・・・はい!総司にばらまかれたら困るもんね』

そう言って手を出すと一くんが照れくさそうに手を繋いだ。
・・そんな顔をされるとこっちまで照れくさいのだが。
というより、今のこの状況周りから見ればカップルだと思われているのだろうか?

流石に、スポーツ用品店に入る前に手が解かれてなんだか勿体無い気持になる。

「本当に申し訳ありませんでした!!」
スポーツ用品店に着くとお姉さんが必死に謝ってくれてなんだか、逆に申し訳ない気持ちになった

『あ、いえ!馬鹿顧問が大量に買い込んだのが悪いんですし!』

「なまえ、言葉が過ぎている」
『アレが悪いんだよ!』
そう、全部トシ兄の責任だ

「仲がいいカップルさんですね」
さらりと笑顔で言ったお姉さんの爆弾発言に
一くんも私も固まってしまった
お姉さん、違います。それは勘違いです!!
少しだけいつも通りに戻っていた空気がまた気まずい沈黙になった気がした

『なんか、やっぱりそういう風に見えるのかな』
「・・すまない」
『え、なんで謝るの?』
「いや、迷惑に感じたのではと思ってな」
少ししゅん、とした表情で俯く一くん
なんで今日はそんなに可愛いの。
なんて言ったら怒られるだろうから黙ってたけど。

『迷惑なんかじゃないしむしろ、今日ついて来てくれて助かった!』
さっき買った部活の用具は無言で持ってくれているし
なにより、一人だったら4時間潰すなんて無理な話だ
『ありがとね、一くん』
「こちらこそ、ありがとな」
『ん?なんか言った?』
「なんでもない、帰るぞなまえ」
自然に差し出された一くんの腕になぜか胸がしめつけられつつも手を少しだけ握ると力強く握ってくれた。

「あっれー?なまえじゃん!」
この声は・・
嫌な予感がしてゆっくり振り返ると姉とまさかのトシ兄
トシ兄、顔が怖いよ殺気立ってるよ
「土方先生・・・」
一くんの顔が青ざめた気がする
『ゆかりちゃん、トシ兄何してるの?』
二人とも仲良くないくせに・・
いつも集まれば口喧嘩ばっかりで聞いてるこっちがうんざりするんだ
「何ってデー「黙れゆかり。」ト」
おお、ナイスツッコミトシ兄
そんなのん気なことを考えているとトシ兄が私と一くんの元に歩いてきた。手をガン見しながら。
「斎藤、なまえとはどういう関係だ?」
『は?』
「いえ、そういう関係では・・・!!」
慌てて手を離す一くん可哀想に・・トシ兄に睨まれてるよ

「ふーん、なまえ。あんた、いい男捕まえたわね!!早く教えてくれてよかったのに」
『お願いだから黙って帰って』

いや、本当に黙って帰って。

何しに来たのこの2人・・・いや、冷やかしに来たんだろうけどさ・・

「なまえ車出してやるからとっとと帰るぞ」
「斎藤くんも乗って送りなさいよ、あんたのおつかいに付き合ってくれたんだから」
『一くん置いて帰る気ならわたし、電車で帰る』
「・・ちっ」
トシ兄 舌打ちしたよこの人・・・
一番可哀想な一くんはオロオロとしているから大丈夫だよ、と笑うと少しだけほほえみ返してくれた
なんだろう、今日はいつもにまして一くんが可愛い。

トシ兄の車は相変わらず煙草くさくてトシ兄の匂いがした
窓から外を見ているとスマホのバイブがなって取り出すと一くんのスマホも鳴ったらしく、私とほぼ同時に取り出していた

宛先は総司から。
嫌な予感しかしなくて顔をしかめた

“君らさ、ヘタレすぎるよ。楽しかったからいいけど”

は?いやいや、まず見ていたのか?
え、千とのデートは?

混乱しながら添付画像があるのに気づいて開くと
今日の一くんと手を繋いで歩いたのが撮られていてなおさらわたしの頭は混乱してしまう。

「どうした?二人ともフリーズ?」
二人?隣を見ると一くんもスマホを持ったまま本日2回目のフリーズをしていた

『一くんも?』
「・・あんたもか?」
そりゃあ。もうばっちり撮られてましたよ
そしてばっちり保存しましたよ。今回はありがとう総司。一くんの可愛い顔のところばっちり撮ってるんだもん

「まったく、総司は・・・」
大きくため息をついた一くん

あはは、と苦笑いしながら今日はなんだか一くんと近い位置に入れたような気がして口元がゆるんだ

今日は、久々に楽しい休日だったなぁ

休日終了。
(ストラップ、どこにつけよう。)
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