卑怯者
※死ネタ、病み注意
白いシーツが赤く染まっていた。
ベッドにもたれかかった彼女の口から溢れたもので赤く赤く。
フィオナちゃんの側には倒れたコップと、周りには大量の錠剤がに散らばっていて、ああ、これを飲んだんだと混乱した頭は徐々に理解した。
病院に運ばれても彼女は目覚める事はなく、真っ白な肌に長い睫毛を下ろしたままだった。
彼女の胸の上に耳を近付けても、何も聞こえない。その左胸で、本来鳴っているはずの鼓動が聞こえない。
「ねえ」
呼びかけても返事は当然ない。そんな事は分かっている。ボクはそっとフィオナちゃんの、切り傷だらけの細い手首を持ち上げる。これは彼女自らがつけた傷だ。
最初こそ止めたよ。
こんな痛々しい傷を作って、どんどん手首がボロボロになっていって。ボクは見ているのが辛かった。
でも、彼女は切りつけた自らの手首を流れ伝う赤いモノを見て目を細めていた。この赤いのを見てると嬉しくなるのって。本当に嬉しそうに笑っていて。
…いつしかボクは止める事を忘れて、黙って傷の手当だけするようになっていた。
…けど、君はもう限界だったんだね。
ここに眠っている君は笑顔じゃない。
それに。
「約束したよね?」
冷たい手首の傷の上にキスをする。
「死ぬ時はボクと一緒だって」
ある日の夕方、手当した後に交わした約束。
「どうしてボクを置いて逝ったの?」
あの時君は「ありがとう」って微笑んで、指切りしたのに。
「ねえ…」
何度も手首に口付けて、見つめた血の気がない唇へ自らのそれを重ねる。やっぱり冷たかった。
「……フィオナちゃんの嘘つき。卑怯者。」
そう悪態をついて嘘つきの小指に口付けたら、涙が頬を伝った。
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飛び降り自殺にしようかと思ったけど、その後の展開を作ろうとしたらえぐくなったのでやめました
獏良くんに卑怯者と言われたい。