また今度会いましょう






身体に、まるでシルバーナ大陸の風のような冷たさが這い上がっている気がする。


けれどお腹はじんじんと熱いほど痛くて、自分が死の間際に立たされている事がよく分かった。



そんな私の血が溢れて止まらないお腹を押さえてくれてる彼の青い手袋が赤黒く染まっていく。


その腕を辿るように目線を動かすと、珍しく悲痛そうな表情を浮かべている、私が命を掛けても守りたかった人と目が合った。


「……ジェ……ジェイド……。」


震える唇でその人の名を呟くと、口からも新しい血が溢れていく。


怪我はない?
と聞きたかったけれど血の塊が喉に上がってきて、ごふ、とそれを吐くことしかできなかった。



「もう、喋らないで下さい。……と、言っても貴方はもう助からないでしょうね……。」


だよね。
と私は無理矢理に微笑む。


この場には第七譜術士がいない。……いたとしても、私の怪我はひどい。
結局の所助からない、とジェイドは分かっていたのだろう。
私よりも多くの戦場に立ってきた彼なら。



「最後に言いたいことは?」



最後。
最後ねぇ。


……考えてる時間も惜しい。


「わ、たし……ジェイド、守れてよかった……のと……、ずっと、大好き、だからね、ジェイド……」


ジェイドが、少しだけ目を見開いた。そして次には呆れたような溜め息。


「今さら私にそれを伝えて、残された私の気持ちにもなってみて下さい。」


「……は、はは……そう、だね……辛いよね、めいわく……だよね」


「ですが」


ぼやけ始めた視界のジェイドが、近付く。
そして血の気を無くしているであろう私の冷たい唇に、温かくて柔らかいもの。



温かさを伝達するようにしばらく重ねられたそれは、私に喜びも運んでくれて。
血の色の糸を引いて唇を離した彼は、いつもの微笑みを浮かべた。


「嬉しかった、ですよ。私も貴方が好きでしたから。」



好き、かぁ。嬉しいなぁ。


でも、彼がどの意味で言ったのか聞くことはもう叶わないだろう。


なぜなら、瞼がすごく重い。多分閉じたら、この世とはおさらばだ。



とりあえず感謝したいのは、辛くても私が即死じゃなかったこと。
ちゃんとジェイドに想いを伝えられる時間が取れたこと。


それに、ジェイドからも好きだと言って貰えたし……満足だ。


「さよ、なら……ジェイド……。また、今度……。」


「さようなら、フィオナ。」


遠くなる意識の中、私は上手く笑えただろうか。





私が愛した彼の腕の中で、私は目を閉じた。
待っているのは深淵の闇。



私はそれに、音もなく落ちていった。













また今度、会いましょう



――――――――――





ちょっと一息の死ネタ。なぜ一息で死ネタ。それは私にも分かりません。




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