4.譜業と私
「ゲルダさん、私、譜業の勉強するよ!」
晩御飯の時間。私は突然そう切り出した。
そうしたらゲルダさんはきょときょとと目を瞬かせた後、柔らかな笑みを浮かべる。
「あら……。もしかして、サフィールに影響を受けたのかしら?」
「う〜ん、それもあるけど……。私、譜術全然ダメなの、先生も知ってるよね?」
「ええ……。」
「このマルクトで身を立てるなら、本当は譜術を使えなきゃまるでザコ。なら私には何ができるかなぁって思ったとき、譜業が目についたんだよ!」
きっと私ならやれるー!とサラダをもしゃもしゃと頬張りながら言った。
「ふふっ、確かにキュビットならやれそうだわ。……ああ、それともう一つ聞きたいのだけれど……。あなた、本当に譜術の素養がないの?」
「……???素養がないから、全く使えないんじゃないの?」
ゲルダさんの質問に疑問を感じつつ、私は答えた。
彼女は少し考えるような仕草をした後、「そんなわけないわよね。」と首を振った。
「……ゲルダさん?」
「いえ、何でもないわ。よし、じゃあキュビットのために、譜業や音機関に関する本をたくさん買ってあげるわね!」
「本当!?よっしゃああー!」
ガッツポーズで喜ぶ私を、ゲルダさんは穏やかに笑って見ていた。
それから、私はゲルダさんに買ってもらった譜業に関する本を読んだり、この前壊れたサフィールの譜業を分解したり、自分で組み立ててみたりして腕を磨いていった。
そして、ある日の放課後……。
「サフィール、サフィール。」
小声でちょいちょいとサフィールを手招きする。
そして耳貸して、と言って彼の耳元でこう言った。
「私達、いっつも雪合戦で負けるじゃん?だからここで、ジェイド達をギャフンと言わせようってワケ。」
「えっ!?いい作戦があるの!?」
「こら!声が大きい!……私達で雪玉自動生成&自動投げ機作ればいいんだよ。そうすればまた違った攻め方とか、回避とか出来るでしょ?」
「ええ……?いいの?それ。きっとズルになるよ?」
「勝てればいいのだよ……!」
「うぅ……分かったよ……協力するよ……。」
よーし!そうと決まれば早速製作に入るぞー!と、サフィールを引きずるようにしてサフィールのお家へ遊びに行った。
役割分担して、かれこれ毎日放課後にサフィールの家に通い、5日で完成させた。
そして、待っていました決戦の日!
「ふっふっふ〜。もう弱いなんて言わせないからね!ジェイド達!」
「どうせまた負けるんだろ……?」
「私達には最終兵器があるんだからね!ほれ、サフィール布取っちゃって!」
「う、うんっ……!!」
サフィールが布を引っ張ると、その下から私とサフィールの共同開発した譜業装置が現れる。
おー、ジェイドもピオニーも驚いた顔してるよ!
「その名も!雪玉投げ投げクン1号〜!」
「違うよ!スノーマシンガンDX号だってば!!」
「えー!?それ可愛くないから却下って言ったじゃん!」
ギャーギャー、と言い争いをしていると、頬っぺたに冷たいのが投げつけられた。
「へへっ隙あり!」
……どうやらピオニーが投げたみたいだった。
「……サフィール。メタメタにしましょ。」
「キュビット!?顔が怖いよ!」
「うるさぁい!雪玉投げ投げクン1号、始動!投げまくれー!」
ガチャコン!
とレバーを引いた。
そうするとやはり思った通り、雪玉投げ投げクン1号は雪玉を瞬時に生成し、マシンガンの如く打ち出す。
「うおおおおお!?」
「……っ……!」
よしよし、雪玉投げ投げクン1号の猛攻でピオニーとジェイドは動けないみたいね!ざまぁみろ!
「さてと、そろそろかわいそうだから止めようか……。」
レバーを戻した。
……が、雪玉投げ投げクン1号は止まらなかった。
「あ、あれ?……まさか、スイッチと繋がってた部分が焼き切れちゃった!?」
「だから僕はこの速さにするのやめようって言ったんだよー!そのうち制御不能になるから!」
それでか!それでサフィールは何度も私を止めたのか!
でもちょっと無茶してでも勝ちたいじゃない!でも、これじゃダメだし!
うおーなるほど悔しい!私は頭を抱えた。
「……とっ、とにかく!私が身体張って止めるから!サフィールとピオニーとジェイドは伏せてー!」
みんながしゃがんだのを確認してから、私はなんとか雪玉投げ投げクン1号を止めようとする。
バーを止めてるネジの部分を緩めると、バーは外れて中を舞う。
サクッ、と調度広場の真ん中に突き刺さった。
「あとは、こっ……ちぃ!」
エンジンに当たる部分を杖でバシバシ叩いて、ショートさせた。
……こうして、雪玉投げ投げクン1号は短い生涯を閉じたのだった……。
「あああ!僕のスノーマシンガンDX号が!ひどいよキュビットー!」
顔をあげたサフィールが、無惨な姿になった雪玉投げ投げクン1号を見て泣き始めた。
「私も初めて作った譜業、こんな形で壊すとは思わなかったよ。……ねえ、今度はもっと良いもの作ろうよ。二人で。ね?だからほら、泣き止んでよ。」
携帯していたティッシュをサフィールに渡す。
サフィールはぐずぐずと涙を流し、ティッシュで鼻水を拭きながら頭を上下に振った。
「……なんかいい話っぽくなったけど、俺達、雪玉投げつけられただけだよな……」
「………馬鹿みたい。」
雪まみれになったピオニーとジェイドは、ぐずぐず泣くサフィールとそれを慰めるキュビットの様子を遠くから見ていたそうな……。
ちなみにその後、雪玉投げ投げクン1号は改良され、後世まで子供たちのおもちゃとして伝わったとか、そうじゃないとか……。
譜業と私
ケテルブルクのあの広場の雪玉投げマシーン誕生秘話(?)です。
もしかしたら幼少サフィールが負けが込んできて作ったとかだったらよくないですか、あれ。
この話では夢主がそそのかして一緒に作りましたが←
でも結局は手で回す奴になったとかさ。
それにしてもサフィールがいい感じに尻にひかれてる←
次回、大きく物語が動く……!?