3.ちっちゃな危険な冒険
「んんんーっ……!…ああ、ダメだ!ごめんジェイド、もっかい!もっかいお手本見せて!」
「……いいけど。」
私がゲルダさん……いや、ネビリム先生の所で勉強し始めて、数日が経った。
たくさんお友達も出来て、嬉しい。
で、私は最近譜術の勉強……行使の方を勉強してるんだけど、一向に出ない。クラスメイトのジェイドにはさっきから付き合ってもらってる。
彼は仕方ないと言った感じで、譜術の詠唱に入った。
……かれこれ、本日で5回目です。
「唸れ烈風!大気の刃よ、切り刻め!タービュランス!」
ぶわあ、と目の前の雪が吹き上がる。風が起こったのだ。
今度こそ、と私も真似して詠唱を始める。
「唸れ烈風!大気の刃よ、切り刻め!タービュランス!」
………。
何も起こらない。
私はがっくりと肩を落とす。
「……これだけやってもダメなら、譜術の才能無いんじゃない?」
だよねえ……。と私が返すとジェイドはため息をつき、
「じゃあ僕は別の勉強がしたいから。さよなら。」
そう言ってジェイドは去っていった。
「……はあ。」
小さくなっていくジェイドの背中を見つめながら、私はため息をついた。
このマルクトという国は、譜術が使えないと話にならないらしい。(とはいえ、あの歳であれほどの譜術が使えるのはジェイドくらいらしいけど)
じゃあ私、何で生きていけばいいのかな。
あーあー、と落胆に近いような声を上げながら歩いていると、何かを引きずっているサフィールとばったり会った。
「やー!サフィール!どこ行くの?」
「キュビット!ちょっと譜業の試運転がしたくて……。」
どうやら彼が引っ張っているのは、ソリに乗せた譜業のようだった。
……そうだ!
「そうだ!そうだよ!譜術が出来なくても、譜業があるじゃない!よっしゃああああ燃えてきた〜!」
「え……!?いきなりどうしたの……!?」
いきなりテンションが上がった私にサフィールはついていけず、おろおろとしていた。
……で、しばらくしてそれに気づいた私はごめんごめんと頭を掻く。
「と、いうことで。その譜業の試運転私もついてっていい?」
そう私が言ったら、サフィールは笑顔になって、
「い……!いいよ!どういうことかさっぱり分からないけど!」
僕についてきて!
と私を試運転する場所へ連れていってくれた。
「で……どうして海へ?」
そう、サフィールに連れてこられた場所は、このケテルブルクの真冬の海。そこで何やら小船に譜業を取り付けているようだった。
「えっと……。ネフリーとキュビットには絶対に言うなって、ジェイドとピオニーに口止めされてるんだけど……。」
「えーっ!?なんで仲間外れにしたの!?私にも教えてよ!」
「うっ……。じゃあ、キュビットには話すから、ネフリーにだけは内緒にしてね。……ジェイドに何されるか分からないから。」
譜業を取り付ける作業の手を止め、顔をあげたサフィールは説明を始める。
「ピオニーが、冒険小説を読んだ影響らしくて……。今夜、海に出て洞窟に宝物を隠そうって言い出したんだ。それで、僕達もそれにつき合わされて……。」
「ふぅ〜ん?つまり、そんな危険なことに女の子巻き込むわけにはいかないって事?」
「そういう事だよ。だから、キュビットは……」
「だがことわーる!」
来るなって言われる前に、そう宣言してやった。どやっ!
サフィールはぽかーんと口を開けた。
「そんな面白そうなこと、どうして私に隠すの?サフィール達が止めても、私はついてくからね!」
「えっ……えーーー!?」
その後、サフィールが何度も私を止めようとしたけど押し切って、ついていく事になったのだった。
-夜の海岸-
「で……。どうしてキュビットがいるんだ?」
「ごめんね、ジェイド……。キュビットがどうしてもって……うわぁぁ蹴らないでよジェイドー!」
私が乱入した事により、早速サフィールがジェイドに蹴られていた。
「でも、本当によかったのか?ネビリム先生が心配するんじゃ……。」
サフィールが蹴られている様子を同じく傍観していたピオニーがそう聞いてきた。
「うん?多分心配するだろうね。でも、好奇心には勝てなくって……!!」
ウキウキと身体を揺らす私に、ピオニーは苦笑した。
「……ああそれと、護身用に杖持ってきてるから。ジェイドもそんなにサフィールを蹴らないでやってよ。」
ジェイドの前で護身用に持ってきた杖を、くるくると回してビシッ!と決めポーズを取った。
そしたら、ジェイドはハァ、と溜め息をついてサフィールを蹴るのをやめた。
「……で、ピオニー。どこに洞窟があるのか、ある程度目星を付けているのか?」
「いや、無い!これから海に出て探したら、ロマンがあるだろ?」
「「「………。」」」
これから探すのかぁ……。さすがに私もピオニーがここまで何にも考えてなかったとなると、顔がひきつってしまう。
「そんな顔すんなよお前ら!とにかく、冒険の始まりだぜ!」
ピオニーは一番に、昼間サフィールが譜業を取り付けた小船に乗った。
ジェイドもやれやれといった表情で後に続く。
「えーと……サフィール、行こうか。」
「うぅ……。」
地面にへたり込んでるサフィールに手を差し伸べ、引っ張り起こした。
海に出てしばらくして。
空が曇ってきて、月の光が遮られる。心なしか、波が荒れてきてる気がした。
「……ね、ねえ……。天気が悪くなってきたよ……。引き返そうよ……。」
サフィールが心配そうな顔をする。
が、ピオニーが「まだまだ!シケてきた所を乗り越えるってのが、海賊っぽくて面白いだろ!?」とか言い出すから引くに引けず……。
ついに本格的に海が荒れてきて、小船が揺れ出す。
……ってあれ?
船、前に進んでなくない?
「……あ、あれ……。譜業に海水が掛かっちゃったかな……!?」
じろ、とジェイドがサフィールを一睨み。
でも、サフィールが言っていたことは本当みたいで、小船はついに動きを止めた。
「……止まっちまったな。」
「ああ。……サフィール、どうする気だ?」
「どうするって……。譜業機関、止まっちゃったし……。ああ!やめてよジェイド!殴らないでぇぇえ!」
「あーあー、二人とも!こんな狭い場所で暴れたら落ち……!?」
二人をなだめようとしたら、何かが近付いてくる気配を本能的に察した。
「みんな!何か来るよ!注意してっ!」
私の声で、緊張感が増す。
来てる、来てるよ。
段々近付いてる。
そう……
「「左だ!」」
ジェイドと私の声が重なった。
ザバァ!
と魚形の魔物が海から飛び出してきて、私は杖でその尾ひれの攻撃をガードし、ジェイドは譜術の詠唱を開始した。
が、魔物の猛攻が激しく、詠唱は中断されてしまう。
「くそ!このままじゃ食い殺されちまうぞ!」
ピオニーが激しく揺れる小船に必死に掴まりながら叫ぶ。
「……僕にいい考えがある。」
同じく小船にしがみついていたジェイドが顔を上げた。
「さすがジェイド!いい策があるんだね!で、どうするの!?」
嬉々と顔をあげたサフィール。
……が、ジェイドはそんなサフィールを小船の先端の端っこに追いやった。
「サフィールはそこで待機!僕は譜術の詠唱をする。ピオニーは小船のバランスを取って、キュビットは僕の護衛!」
「えっ!えっ!?」
「分かった!」
「よっしゃー任せなさーい♪」
おどおどしているのはサフィールだけで、他二人はテキパキと自分の役割を遂行する。
ピオニーは小船が転覆しないようバランスを取って、私は魔物の攻撃からジェイドを守った。
「う……うわぁぁぁぁああ!?」
「サフィール危ないっ!!」
ついにサフィールに魔物が襲い掛かろうとした時、ジェイドが詠唱を終えたようだった。
「終わりの安らぎを与えよ。フレイムバースト!」
ジェイドが譜術を唱えると、何処からともなく現れた炎が軌跡を描き、魔物に命中する。
その時、小船が大きく揺れて私はとっさにしがみつく。
「ぎゃあああーーー!!」
ざぱぁん!
と、水飛沫が二つ。
顔を上げると、小船にサフィールがいない。
……どうやら魔物と一緒に海に落ちたようだった。
「大変!助けないと!」
「おい!キュビット!」
ピオニーとジェイドの制止も聞かず、ぽい、と杖を床に投げて、私は海へ飛び込む。
ひぃ、冷たい。
なんとか海面から顔を出して呼吸をしているサフィールの腕を肩に担いで、小船へとたどり着いた。
「ひゃー。冷たかった。サフィール、大丈夫?」
「うぇぇ……ひどいよぅ、ジェイドぉぉ……」
サフィールは半泣きで鼻水垂らしてたけど、まあ無事みたいだった。
「……キュビット、泳げたんだね。これで君も泳げないとなったら、面倒な奴がもう一人増えたと思う所だったよ。」
ジェイドが呆れ気味にそう言った。……あり?どうして私泳げたんだろ。まぁ、いいか。
その後はさすがに洞窟探しは諦めて、手漕ぎで小船を動かした。
なんとか陸に辿り着いたけど、そこではネビリム先生が待ち伏せしてて。
私達四人はこっぴどく叱られるのでした……。
ちっちゃな危険な冒険
ファンダム2のお話を参考に妄想してみました!
とはいえ、実際にプレイした事は無いので、どっかおかしい所が出てくると思いますがまぁ、気にしない方向で。
とりあえず雪国三人衆全員登場ですな。