14.人助けは打開策の第一歩なり






サフィールと二人きりで研究するようになって、1年。


相変わらず魔物や動物で実験したり、なんなりしていた。
で、今日も実験材料を集めるために山の中を歩いていたら、ガサガサと近くで不審な音がした。


「魔物……?」


銃杖を構えながら音のした方に近付くと、人の足が見えた。


構えを解いて覗き込むと、大荷物を持ったお爺さんが倒れて起き上がれなくなっているようだった。


「お爺さん、大丈夫!?」


こんな山の中、倒れたままだと魔物の餌になってしまう。
そう思った私は、お爺さんを助け起こしてあげた。


「おおお、助かったわい……ありがとう……」


お爺さんは立ち上がろうと腕に力を込めたようだったが、すぐに辛そうに顔を歪ませ、力が抜ける。
腰をさすっている事から、どうやら腰を痛めた様子だった。


「腰……大丈夫ですか?」


「イタタタタ……まさか腰を痛めてしまうとはのう……躓いた事といい、今日は厄日じゃ……。」


何とかしてあげられないだろうか。
しばらく考え込んだ私は、治癒術の存在を思い出す。


「そうだお爺さん、私が治療してあげます!」


目の前の人を助けるため治癒術を使うのに、迷いは一切なかった。

お爺さんの腰に手をかざし、集中する。
すると集まりだす、暖かな光。


「……ヒール!」


…実は、サフィールの目を盗んでこっそり治癒術の勉強とか練習とかしてた。
実験が終わって、死にかけになった魔物や動物相手に、ね。


いやー他人に掛けるのは初めてだよ?でもお爺さん、穏やかな顔になった。


「お嬢さん、第七音譜術士だったんじゃな。おかげで助かったわい……。」


「よかった、治ったんですね。」


ちゃんと治癒術が効いたようで、お爺さんは軽々と立ち上がる。
……本当はすごく元気な人だったのだろう。こんな山の中を大荷物で歩いているのだから。


「お嬢さん、お礼といっちゃ小さいものですが……この石を貰ってくだされ。」


お爺さんから手渡されたのは、表面が鏡のようになった不思議な石ころだった。


「これは……?」


「ラーデシア大陸で採れたという鉱石じゃよ。綺麗じゃろ?」


「はい……!本当に、貰っていいんですか?」


「いいんじゃよ。荷物も軽くなるしなぁ。」


よっこいせ、と荷物を背負いニカッと笑うお爺さんに、私も笑い返した。


「ありがとうございます!お爺さん、お気を付けて!」


「お嬢さんも、魔物や盗賊に気を付けるんじゃよ〜。」


手を振って、お爺さんと別れた。


その後私は必要な分の魔物を狩って、洞窟の研究所まで戻った。



「えーと、パスワードっと……」



『サフィールとキュビットの研究所』って書かれたプレートが下がったパスワード付きのなんか目立つ扉だけど、私が草木で隠したりとかカモフラージュしてるお陰で目立たない。


いつもの調子でパスワードを入力し、研究所内に入った。




「ただいまサフィール!」


「おかえりなさいキュビット!今、面白いものが完成したんですよ!!見てください!」


サフィールがフフンと笑いながら手を置いたのは、私がこの前買ってきた家財道具の椅子だった。


「その椅子がどうしたの?」


「ふっふっふっ……まあ黙って見ていなさい!きっと驚きますよ?」


サフィールがその椅子に座って椅子の手すりをいじると、その椅子はふわりと浮遊し始めた。


「おわぁぁあすごー!かっちょいいいー!」


「そうでしょう?すごいでしょう!これで移動も楽チンですよ!」


空飛ぶ椅子で移動してみせる彼を見て、私は瞳を輝かせた。


「いいなぁ……空飛べるっていいなぁ……。私もそういうの作りたいなぁ……。あ、そうだ。今日いいもの貰っちゃったの。」


ごそごそ、と魔物が入った袋とは違う袋を漁り出す私を、サフィールはまるで頭にハテナでも浮かべているかのような顔をして見ていた。


「これ。ラーデシア大陸で採れた鉱石なんだってさ。鏡みたいで不思議でしょ?」


「確かに……。」


私の手の中にある石ころのような鉱石が、じっとそれを覗き込むサフィールの姿を映す。


「でね、ちょっと調べてみようかなって。何か発見があるかもしれないし。手伝ってくれる?」


「ええ。いいですよ。私も興味がありますから。」



サフィール協力の元、その鉱石を調べるとすごいことが分かった。


「サフィール……これ、これってさ……!」


「大量に、フォニミンを含んでいますね……。これが採掘される場所が分かれば、フォミクリーの研究も……!」


フォニミンとは、レプリカを作るときに必要な成分である。
けれど、中々大量には採れなくて、長い間私とサフィールは頭を悩ませていた。


それが今、解決できそう。
すごく、わくわくしてきた!


「この鉱石が採れたのは、ラーデシア大陸だよ。明日辺りにラーデシア大陸まで行ってみようか!」


「そうですね!……あ、私はこの椅子があるから船なんて要りませんが……キュビットはどうします?」


「え?」


サフィールが言うには、その音機関が取り付けられた椅子は結構な高さ・距離を行ける出力らしい。


で、速さも早く出来るらしく、船とサフィールの椅子とでは時間差が出来てしまうとのこと。


「うーん……。」


しばらく悩んだ私だったが、やっぱサフィールの空飛ぶ椅子羨ましいし……。


「……決めた。私も空飛ぶ譜業作るわ。」


「は……?」


呆けた顔になったサフィールの横で、私は色々と準備を始めた。


私も空を飛んでみせるよ!













人助けは打開策の第一歩なり

















ここでもう空飛ぶ椅子が登場。
椅子を羨んだキュビットもなにやら準備し始めました。
そして次回、何かが起こります。




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