15.衝撃
「サフィール。起きて、サフィール!」
ベッドの上でまだすやすやと寝息を立てていたサフィールを揺り起こす。
「むにゃ……キュビット……?おはようございます……。」
「私も空飛ぶ譜業完成したよ!」
「なんですって!?」
ガバ、と意識が覚醒したように勢いよく起き上がる彼に、私は完成品を見せる。
「じゃん!こいつを靴に取り付けて空に浮かぶの!」
こうやって!
と、私の履いているブーツに譜業を取り付ける。
「で、こう……風の音素を取り込むように……。」
全身から取り入れた第三音素を、ブーツに集中させる。
するとふわ、と私の身体は浮き上がり始めた。
「……どやっ!」
「すごいですね……。譜術と譜業に精通してるからこそ、成せる技です。」
「それほどでも〜。あぁあと、音素を取り込んだ後は自動で大気中の音素を音機関に取り込むような仕組みにしてあるから、体力も問題ないよ。」
「なるほど。では、浮遊を止める時は?」
「地の音素で打ち消して止めるの。これも、風の音素を取り込んだ時と同じ要領で……。」
私は第二音素を取り込んでみせる。
すると、譜業は第三音素の放出を止めた。
「とまぁ、とにかくこんな感じで……。サフィールと一緒に空飛べるよ。やったね。」
ニコ、と笑いかけると、サフィールは嬉しそうな顔をした。
「ええ!さあ、さっそくラーデシア大陸まで行きましょうか!」
ウキウキとした様子の彼は譜業の椅子に乗って洞窟を出る。
私も、洞窟を出てからジェットブーツを起動させ、空に浮かんだ。
──その後、私たちは三日間かけて、この鉱石の出所を調べた。
ラーデシア大陸の代表的な街であるシェリダンとかで聞き込みしたりね。
そして、ついにこの鉱石が採れる洞窟を見つけた。
「……──どうやら人の手は、あまり入っていないようですね。」
サフィールの言う通り、洞窟には採掘の跡が少なく、足跡らしい足跡もなかった。
……つまり、人は来ない。
あんまり普通の人たちには、めぼしい鉱石とは思われていないみたいだなぁ。
私たちにはすっごい役に立つ鉱石だけどね。
サフィールの護衛をしてあげながら、洞窟の奥まで進んでみた。
洞窟の奥は結構な広さの空洞があって、フォミクリーの音機関も入りそうだった。
「……ぎゃあああああっ!?」
細かい採寸をしていたら、サフィールの悲鳴が聞こえた。
「サフィール!?」
驚いて悲鳴の聞こえた方を見ると、椅子から転げ落ちたサフィールがバットの群れに襲われていた。
私は急いで銃杖を取りだし、サフィールには当たらないように音素弾を発砲する。
「こらー!サフィールをいじめるなぁー!」
パァン!
パパパァン!
しばらくバットに発砲を続けると、当たって下に落ちるものや、それを恐れて逃げ出すものも出てきた。
完全に追い払ったあと、私はサフィールに駆け寄った。
「サフィール!大丈夫!?」
涙目で私を見た彼は、顔にたくさんすり傷を作っていた。
……一瞬心のつかえが邪魔をしてためらったけれど、治癒術を使うことにした。
サフィールの傷に手をそっとかざす。
「……?キュビット……何を……?」
「癒しの光よ……ヒール!」
手から放たれる暖かい光が、サフィールの傷を癒していく。
彼は驚いた顔をしていたが、
「はい、これでもう大丈夫……」
傷をしっかり治癒したあと微笑んだら、ポロポロと涙を溢し始めた。
「えええっ!?ちょ、ちょっと!なんで泣くの!?」
なんで泣いてるか分からないけど、結局彼は泣き虫だった。
泣かないで、とあやすように彼を抱き締め背中をとんとん、と叩くと、彼が震える声で何か言った。
それも鼻声だったから、聞き取りづらいのなんの。
「えっ、なに?なんて言った?」
私が聞き返すと、彼は嗚咽と鼻水を啜る音を交えながら、驚きの言葉を放った。
「……キュビット……しゅ、……好き……。」
「………はい!?」
衝撃
キュビットの空飛ぶ譜業に関してはちょっと「細けぇことはいいんだよ!」仕様です。
エターニアのエアリアルボードみたいなのも考えたのですが、やっぱり空を駆けるように飛んだ方が彼女らしいかなと。
夢主イメージ図でフライングして描いていたあの鉄の輪みたいな奴が彼女の作った空飛ぶ譜業です。
なんだか便利そうな譜業ですが、飛んでいる途中に譜術を使うと別の音素反応が現れる可能性があるため、空を飛んだまま戦闘はできません。
さてラスト……もったいぶるような終わり方ですみません。
情けない告白。今まで鈍かったキュビットにも伝わったようです。
ちょっとかっこ悪いとこがサフィールらしくて可愛いんだよ…!