9.疑問と真実






「……んん……。」



朝日で目が覚めた。
しかも、どうやら自宅のようだし。一体なぜ……。
と、横を見たら、かっくん、かっくん、と一定のリズムで揺れる白。



……ああ、サフィールだ。



………ん?



え?サフィール??



「なんで私の家にサフィールが?」



きょときょとと彼を見ていると、椅子に腰掛けながら寝ていた彼は目を覚ました。



「ん……。……あ、起きたんですね。おはようございます。……調子は……?」



「え、ああ、うん……。昨日ほどは辛くないよ。……なんか、今度はどんどん体温下がってる気がするけど……。」



「どれ……。」



サフィールはそっと私の額に手を当てた。
そして顔をしかめて手を離す。



「貴方……。体温が冷たすぎますよ。昨日からどうしたんですか?」



「あっははは……。私、どっか悪いのかもね、あはははは……。」



誤魔化すように笑っていると、サフィールが真剣な表情でじっと見ていることに気が付く。



「な、何さ……。そんなに見つめられたら穴空いちゃうよ。」



「茶化さないで下さい。見ましたよ、異世界飛行理論。あれはどういう意図があって研究していたんですか?」



「なっ……!!見たの……!?」



こくり、とサフィールは頷いた。



やばい、やばいなあ。
もう逃げられないよなぁ……。サフィールの口振りじゃ、もう中身見られたくさいし……。



観念するかあ……。
私はため息をついてから、重く感じる口を開いた。



「……驚かないでよ?……あ、あとさ。これから話す事信じられないと思うけど信じてね。」



「……?どういう意味ですか?」



「いいから。信じてね?」



「は、はい。」



まだ納得いっていないような彼だったが、頷いてくれた。



「ありがと。じゃあ話すよ。なんで異世界飛行理論作ったかというとね……。実は、私この世界の人間じゃないんだよね。」



「……なん、ですって……!?そんな、馬鹿な!」



ああ、やっぱりサフィールは驚いた顔したよ。
……そうなっても無理はないんだけどさ。



「嘘じゃない、ホント。あの数年前の屋敷が燃えた事件。あの時に私は失っていた記憶を取り戻した。私はエフィネアの人間で、技術者集団アンマルチア族の一人・キュビットだったと。」



「そんな……。そんなことがあり得るのですか……?」



「あり得ちゃったねー。私が証人だよ。エフィネアでは音素の力じゃなくて、輝石(クリアス)から原素(エレス)のエネルギーを取り出して……」



「待って、待ってください。」



サフィールに制止を入れられる。なぜか彼の手は、微かに震えていた。



「もしかして、私達に黙ってその……エフィネア、という世界に帰ろうとしていたのですか?」



「……うん。そうだよ。正確にはそれなりの理由を作っていなくなろうと……。」



「貴方がいなくなったら、私が……私とジェイドが、どんな思いをすると思っているんですか!」



おっと、こりゃ驚いた。
こんなに心配してくれるとは思わなかったよ。だってサフィール、泣きそうな顔してるし。



「あはは……。ごめん。でもね、この世界も悪くないよ。それに……帰るの諦めようかなって。」



「……は……?」



サフィールがすっとんきょうな声をあげる。
私は、今考えた仮説を話した。



「なんかさ、昨日からの体調の悪さ……もしかしたら私の身体、オールドラントの世界に馴染もうとしてるのかもしれないって思うの。」



「馴染む……?」



「ほら、私オールドラント人じゃないでしょ?だから、当然身体の構造も違う。それが今、身体の構造を創り変えるようにフォンスロットが生成されていたとしたら……。」



そこまで話すと、サフィールはまさか!と声をあげた。



「全ての属性の音素を、取り込んでいる最中だと言うのですか!?」



「……そして、全てが取り込み終わった時、私の身体の構造はエフィネア人からオールドラント人へと創り変えられる……。恐らく昨日のは、第二と第五の音素による影響、今日のはきっと第三と第四の音素の影響……。って、考えてみたんだけど。実際に試してみるか。」



「え?」



ほら、見てみてよ。と私は右手を上にあげ、小さい火をイメージした。



すると、手のひらの上に小さな火が灯る。




「!」



「お、やったぁ。成功だ♪」



「えっ、初めて扱ったんですよね!?もし爆発起こしたらどうするつもりだったんですか!あなた音素舐めすぎですよ!」



サフィールからお叱りを受けてしまった。はいはいごめんなさい、と素直に私は火を消す。



「……まぁ、これで分かってくれたかな?今までご存知の通り、全く譜術が使えなかった私が、こうして譜術使えるようになっちゃった。
完璧に身体の構造変わっちゃったら、多分エフィネアに帰ることはもう無理だね。
向こうとこっち、理が全く違うし……。

寧ろ、今までこっちで何の影響もなく無事に生きてこれた事が奇跡だったんだよ。
とりあえず、今日の症状もしばらくしたら治まるから。元気になったら、研究所に顔出すよ。」



「……ええ、分かりました。どうか安静にしていて下さい。」



サフィールは椅子から立ち上がりドアに向かって歩き出す。
ドアを開ける前に一度だけ振り返って、
心配そうに私を見つめた後、部屋を出ていった。



……って所で部屋の全体を見て気付いたんだけど、なんだか私の部屋、片付いちゃってない?




「……やってくれたな!サフィールぅー!!」




私の叫び声が、部屋に木霊した。













疑問と真実











アンマルチア族って環境にすごく馴染みそうじゃないですか。え?偏見入ってる?気にするでなーい。
とりあえずこれで術解禁です。夢主は元からパスカルやフーリエに術を習っていたので、術の扱いには手馴れています。


部屋ぐっちゃぐちゃでも自分には何がどこにあるか分かるのでいいんだ系。
それゆえ、片付けられると物がどこに行ったのか分からなくなるため困るタイプです、夢主はwww



※補足

夢主が生まれたグレイセスの世界…エフィネアでは原素(エレス)が主なエネルギー源です。
その原素が詰まった石は輝石(クリアス)と呼ばれており、人々は輝石から原素を取り出して生活しています。

ちなみにその輝石からのエネルギーを用いた術のことを輝術と言います。
よって夢主は元は輝術使いでした。(陣術ではない)




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