「シズちゃんラブ!愛してる!!」
「あー、はいはい分かったからそこを退け」
朝からけたたましく愛を叫ぶ臨也をあしらいつつ静雄はパンをかじりながら着慣れたワイシャツに腕を通す。
このやり取りはかれこれ三ヶ月近く続いている。
ある日、いつものように池袋で臨也を見掛けた静雄は直ぐさま標識を引き抜き怒鳴り付けた。
いつも通りならそこで殺し合いが始まる所なのだがその日既に彼は可笑しくなっていた。
臨也は天下の公道で静雄への愛を叫び出したのだ。
「今日もカッコイイね、バーテン姿が眩し過ぎるっ」
「うぜぇ」
「だって本当の事なんだもん。弟君からの贈り物を大事にしてさー……なのに俺にはその優しさの一ミリも分けてくれないのはなんで!?」
「頼むから黙れ」
あの日から臨也は毎朝こうして静雄に会いにくる。
毎夜毎夜施錠はしっかりしている筈なのにも関わらず朝には部屋に上がり込み、そして愛やなんだのと騒ぎ立て帰っていく。
帰っても仕事の休憩時間を見計らって突っ込んでくる訳だが、最近ではあしらうのすら面倒になってきたのは間違いない。
胸糞悪い存在から臨也は確実に静雄の中で「得体の知れないウザイもの」にクラスチェンジを遂げていた。
嫌いという感情全てを払拭出来た訳ではないがまあおかしな奴という認識な方が強くなってきている。
静雄に臨也が好きかと聞けば多分違うだろうが。
自分を愛してくれる人がいる、というのは嬉しい筈なのだが、静雄は臨也の台詞に驚きはしたものの心までは動かされなかった。
それ以前に言葉に重みすら感じなかった。
「酷いなあ、俺はシズちゃんを愛してるだけだよ?前にも言ったよね?俺は数十億の人類より君を選んだんだ。ちょっとくらい優しくしてくれても良いじゃないか」
「それが怪しいんだよ、胡散臭ぇ」
はっきりいって今までの事もあって臨也を信用する事は出来ない。
愛してる、そんな言葉を並べ立てられどんなに積まれても、あんなに愛を欲しがっていた筈の静雄にも薄っぺらいものにしか感じずにはいられなかった。
臨也はヘラヘラと軽く沢山の愛を口にする。
そんなもの妖刀の件の時と変わらない。
「お前の言葉じゃ俺は何とも思わねぇよ。分かったら帰れ、もうすぐで俺も出る」
「ホント、酷いなぁ……分かった」
やれやれ、と両手をわざとらしく挙げた臨也は溜め息をつく。
けれど、普段のようにふざけたような態度のそれが……少し淋しげに見えたのだ。
「ホントに、愛してるのになぁ」そう呟いて臨也は部屋を出ようと玄関へ歩いていく。
「おい」
静雄は臨也の腕を掴んで引き止めた。
キョトン、としながら見上げてくる臨也を静雄はじっと見詰める。
「本当に手前は俺が好きなのか?」
愛してる、そんな軽々しい言葉なんて要らない。
けれどその言葉が本物なら。
目を見張ったまま固まってしまった臨也を壁際に追いやりながら静雄は思う。
本物ならどうするのか。
「愛してるとかまぜっ返すな、ちゃんと目ぇ見て、ちゃんと聞かせろ。どうなんだ?」
「あ、ぅ……えっと……っ」
急に押し黙ってしまった臨也の返事を待つが口をぱくぱくさせながら臨也はまだ動かない。
先程の言葉は信じても良いような気がしたのだ。
だから……。
「……好…、き」
「………」
消えそうなぐらい小さな声が確かに響く。
顔を真っ赤にさせ、涙目になった臨也はへなへなとだらし無くその場にしゃがみ込んで顔を膝に埋める。
うぅ……なんて唸っている臨也に何だか笑いが込み上げてきて、それと同時に考えてやっても良いかなとも静雄は思ってしまった。
あんなにも囁かれた言葉よりも臨也からの一言が静かに響いて離れなかった。
言いたかった事は臨也にとって「好き>愛してる」だったら可愛いなって事です
まとまらない……、伝わらない……
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