放課後。
生徒会は珍しく委員会や部活等に配分する資金について真面目に話し合っていた。大抵いつも天霧の旦那に任せっきりな仕事に、あの風間が手を付けるなどという今までかつて無かった事象に、一番驚いていたのは生徒会の誰でもなく、例の風紀委員を取り仕切る顧問かつ教頭かつ古典教師を三つ兼任する男だったりする。風間と同級生というポジションに立っているだけに、そこに降り掛かる衝撃は通常の二割増しという計算式が成立するようだった。が、しかし土方に限らず天霧や俺だって同様に目を見開いていたのを思い出す。
雪村にフラれ続けることによってストレスでも溜まったのか風間。別に悪いことってわけでもねーが、何故か溜め息が漏れた。
「こんにちはー」
「んァ?」
そのとき、生徒会室の扉が開き、見知った顔が覗く。貴崎羽織。まだ知り合って三日にもならない後輩だ。書類っぽいのを小脇に抱えている。ああ、そういやコイツ、園芸部長だったか。部費の件で相談があるとか何とかいう用件らしい。一番出入り口の近くに居た天霧が対応しているが、しかし貴崎はいつもと違う室内の空気に何処か落ち着かない風だった。
「よう貴崎」
「え……あれ、匡君だ」
「ああ。つかお前、ちゃんと部長やってたんだな」
「うん。やってるよ」
俺はあまり生徒会自体に出向くことも無いから、ここで顔を合わせるのは初めてだ。新鮮な心地になる。それはアチラさんも同じであるらしくソワソワと、右を見たり左を見たり。
その間にも相談事については天霧の上手い交渉術でスッキリ片が付いたようだ。ペコリと頭を下げて踵を返す。仕事を始め出したら効率の良い風間のお陰で完全に手持ち無沙汰な俺は、暇を潰すためそのまま立ち去ろうとする彼女を引き留めた。
何故か天霧が嘆息しているが、意図して視野から外しておく。
「なあ貴崎、暇か?」
「ん?あ、えーと、部活有るけど……」
「そか……わかった。行く」
「え、良いの?お仕事は、」
「今日は生徒会長サマがやってくれるってよ。な?旦那」
「……まあ、良いでしょう」
渋面で頷く天霧に取り敢えず礼を言って、未だ若干怯んでいる貴崎の背を押しながら退室する。
退屈を凌げるなら何でも良かった。別に行き先が園芸部だろうが、屋上だろうが目的は変わらない。一人で居たいときは迷わず屋上へ行く。が、今は気分が違う上、そうでなくとも風紀委員が目を光らせているため近寄らない方が賢明ってわけだ。
「匡君、匡君」
「あ?」
「今日の部活、水、あげるだけなんだけど、多分退屈だと思うんだけど、良いのかな」
「べっつに。やること無いなら帰りゃ良いだけの話だしな」
「あ、なるほど」
パスッ、と相槌を打とうとして掠ったような音がした。掌の端を思い切り殴ってしまったらしく貴崎は顔をしかめる。痛い。小さく呟く様子が妙にツボに入って軽く吹き出した。
な、何で笑うかな。
そう言って拗ねる。さてドジっ子か天然か、貴崎はどっちに分類されるんだろうな。どっちでも良いが、やっぱ飽きねえわコイツ。
「……匡君」
「なんだ」
「あの、そんなに第二のドジを期待するような目で見詰められても困るかなって」
「何だ、コケたりしないのか」
「む。極力しない」
極力、と努力して保険掛けてる辺り、自覚は有るらしい。
「だって転ぶの、痛いし」
「そりゃな」
「それに、そんなに典型的なドジっ子になるつもりもなかったり」
「ま、自分の意志でそんな属性選ぶ人間に、ロクな奴は居ねえ」
「ん……それはドジっ子じゃなくて、ブリっ子って人だと思うの」
「へえ、お前に人並みの知識が有ったことが驚きだ」
「む」
たった三日で私の何を知ったのか、ひじょーっに気になるんだけど。
ついに拗ねパラメータがマックスにまで達した貴崎は、そう言ったきり裏庭に着くまでずっと、腕組みして怒りをアピールしていた。
これってアレだよな。
この後確実に何かしらドジを踏むっていうアレだよな。
フラグ
回収される瞬間を見逃すまいと、暫く貴崎から目を離さないことにした。
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