ハウリエ


あの人が泣いている夢を見ました。ハウオリシティの港、星がキラキラと海に落ち、街灯の光に照らされている中。彼は係船柱に座り静かに肩を震わせていました。わたしはなぜか船に乗り、博士とヨウさんにひらひらと手を振っているのですが、彼も見送ってくれているとなぜか思い込んでいます。いいえ。彼は見送ってくれてすらいないのです。だれにも泣き顔を見せないように、ただひとり背中を向けているのです。それにようやく気がついて愕然とした時、わたしは目を覚ましました。

それから彼が気になって仕方がないのです。時たまにエーテルパラダイスに遊びに来る彼を無意識に目で追いかけるわたしに、にいさまがさすがに気づいて言いました。

「ハウが気になるのか?」

わたしはぱちりと瞬きをしたあと、目を伏せました。気になる、という言葉では表せない感情が胸の中を支配しているのです。頭の中でぐるぐると駆け巡る言葉をゆっくりとまとめてから、わたしはようやく口を開くことが出来ました。

「……ハウさんはいつも笑顔で、素敵な方ですね」

「そうだな、あいつは常に楽しんでいる。バトルも、人と話すことも、食べることも」

珍しく素直に人を褒めたにいさまを見つめたわたしは、思わず聞いてはいけないことを聞いてしまいました。

「ならハウさんは、いつ泣くのでしょうか」

目を丸くしたにいさまがわたしを見て、ハウさんを見て、それから小さく息を吐くと、にいさまは声を抑えてこれはヨウから聞いた話だが、と話し始めました。

「ヨウとポケモンリーグで全力をだして戦い、敗れた時。あいつは咄嗟に後ろを向き涙を腕で拭ったあと、いつものように笑ったそうだ」

その言葉に、夢で見た彼の背中と想像の彼が重なりました。ハウさんは、泣かないのではないのです。ただ、泣く姿を誰にも見せないだけ。弱みも、悔しさも、悲しさも、寂しさも、全て自分だけで処理して、いつものように笑ってしまう。強くてか細い背中。
にいさま、と呼びかけるとにいさまはいつものように表情無くこちらに顔を向けました。いっそにいさまのほうが表情が豊かなことに、わたしは気づいてしまったのです。どうしましょう。

「わたしもう、ハウさんのこと、放ってはおけなくなってしまいました」

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