見知らぬ記憶


(いそのどうくつ前)


ギルドに帰ってきたおやかたさまは開口一番、それはそれは大きな声で目が痛い、と訴えた。
今日は風がひときわ激しく、さらにおやかたさまは瞳が大きくていらっしゃるのできっと地面の砂埃が入ってしまったのだろうとすぐに合点がつき、本を読んだりして目が疲れた時に自分がよく使っている目薬をさしてあげることにした。
怖いのかぎゅうと頑なに目を瞑るおやかたさまにそれじゃさせませんよ、と呆れているとおずおずと両目を開けて、できるだけ痛くないように慎重に一滴だけ目薬をさす。
ぱちぱちしてください、と言うとおやかたさまは素直に瞬きをした。ポロポロと大きな瞳から入り切らなかった目薬がこぼれ落ちる。それと共に猛烈な既視感。
(あれ)
この方の泣き顔は見慣れている。セカイイチがなくなるとすぐ子供のようにうるうると涙を溜めて、赤子のように泣き叫ぶ。でもこれは何か違う。前にも見た?いいや、こんなに静かに何かをこらえるように涙を流す姿は見たことがないはずだ。けれどなんだろう、この既視感は。濡れた体。冷たい岩の感触。見たことのない模様。あの方が見たことの無い顔でワタシを見下ろしている。
なにか、たいせつなことを、忘れているような。

「ぺラップ?」

訝しげに声をかけられて、朧気な白昼夢は跡形も無く霧散した。ふるふると首を降りぺラップは重々しくため息をついた。ただ目薬をさしただけなのに、なんだかどっと疲れてしまった。

「……いえ、なんでもありません」

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