グラハウ


「ここから逃げていたつもりだった」

グラジオがぽつりと呟いたので、ハウは保護区のポケモン達から視線を移した。保護区はあの頃よりも若干柔らかな雰囲気になっていて、保護されているポケモン達もピリピリした表情は見せなくなった。きっとこの財団のあり方自体が変わったおかげだろう。

「結局はここに縛り付けられるんだな、オレは」

自虐的に口角を上げたグラジオの黒い服は、白を協調としたエーテルパラダイスではかなり浮いて見える。しかしハウはグラジオには白は似合わないと確信している。タイプ:ヌルを連れ出してから、きっと彼は白から卒業したのだ。なににも染まれない純粋な白から。
しかしグラジオは戻ってきてしまった。ここには妹も、母もいない。財団を立て直せるのは、自分だけだ。皮肉なものだ。逃げ出した場所に居場所を見出すとは。

「ちがうよー」

ハウが真面目な顔でそう言うものだから、グラジオは珍しく目を真ん丸にした。ハウはまっすぐに母と同じ緑色の瞳を見つめている。

「逃げ出すことはー、誰にでも、それこそ今からでもできるよー」

脳裏に浮かぶのは父の姿。しまキング、という偉大すぎる祖父に押し潰されてカントーに逃げたハウの父。その背中を見ているからこそ、ハウは今まで逃げなかった。簡単に逃げられることを知っているから、簡単には諦めずにいられた。

「でもグラジオは戻ってきた」

そっとグラジオの手をとる。白くて細い手だ。でもそんな手が、力強く家族を守ったことをハウは知っている。

「逃げずに戻ってきたのはね、ここが好きだからでしょー?」

にこり、と笑みを浮かべるハウに、グラジオはつられてふ、と笑った。そうだな、ここは。

「ここは、リーリエと母上との……家族との思い出が至る所に存在している。だから」

そこで言葉を切って、グラジオはふっと口角を上げた。ハウの見たことのない、優しい笑顔だった。

「だからオレは、きっとここが好きなのだろう」

もちろん嫌な思い出もたくさんあった。それでも、グラジオは戻ってきた。嫌なことも、楽しかったことも、全てひっくるめてこの場所が好きなのだ。
無くしたくない。母が作り上げて、まとめあげた財団も。後先考えずに必死に連れ出したタイプ:ヌルの償い、と言ったら何だが、ルザミーネがウルトラホールに消えた時から、グラジオはこの場所を守ってみせると決めたのだ。

「おれも、グラジオが好きなエーテルパラダイスがすき。だってね、」

グラジオの手を握ったまま、ハウは歌うように言葉を紡いだ。たとえ苦しくても大切な家族のために戦い、帰る場所を守り抜く強さを持つ、そんなきみが。おれは。

「おれはグラジオがすきだから!」

20180223

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