きみのせいで世界が見えない


そのピンク色をした華奢な背中が吹き飛ぶのを見た時、世界が一気に白黒になったような錯覚に陥った。正直、その後のことはあやふやにしか覚えていない。

「ああよかった、マリオが無事で」

「……きみは無事じゃないじゃないか」

頬に沢山傷を付けながら微笑む彼女のドレスはボロボロで、所々血で滲んでいる。とてもじゃないけど美しい姫とは言えないピーチの姿に、ボクは頭を抱えそうになった。
油断していたのだ。倒したと思っていたクッパはまだ動けて、捨て身でボクに体当たりを仕掛けてきた。そしてあろう事かピーチはそれを庇い、クッパの巨体をもろに食らって吹き飛び壁にぶつかって大怪我を負った。

「頼むよ、冷や冷やさせないでくれ。助けに行った姫が死んだんじゃここまで来た意味がないだろう」

「大丈夫よ。ワタシこれでも結構丈夫なの。こんな怪我よりマリオが傷つくことのほうがよっぽど痛いわ。」

あなたの方こそ、疲れてない?助けてくれてありがとう。
ピーチはそっとボクの頬を引き寄せて、鼻先に触れるだけのキスをした。いつもならこれだけで心拍数は上がり顔は林檎のように赤くなるのだが、今はなんだかそんな気分にはならなかった。ボクは彼女の体を横抱きにして、来た道を戻り始めた。外に出ればヨッシーが待っているから、彼女を乗せて貰うことにして。

「本当に、二度とこんなことはしないでくれ……きみが傷ついてるところは見たくないんだ」

「ふふ」

こつ、こつと足音だけが響く。人が真剣に頼んでいるのに、彼女はどうにもマイペースだ。ボクの首に回していた手を口元に持ってきて、ピーチは笑った。

「笑わないでくれ!本当に怖かったんだからな!」

「ごめんなさい。あなたがあんなに取り乱すの、珍しくてつい」

ピーチは何もわかっていない。ボクがいつもの調子を取り戻せないのも、きみのマイペースさに振り回されているからだって。さっき無茶した代わりに、絶対言ってやらないけど。恋は盲目とはよく言ったものだ。

「……あーあ、きみには本当に適わないなあ」

「あら、それをあなたが言うのね」

20160211

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