結局みんな(マリオとルイージとペーパーマリオ)
たまに兄に対して殺したいくらいの嫌悪とか怒りを覚えたりすることってある?
旅の疲れを癒すため宿屋にて休息を取っていたルイージに、ペーパーマリオはベッドに腰掛けて足をぶらぶらさせながら尋ねた。もう一人のマリオは疲れたのか早々に眠りについて、時折いびきすらかいている。急に物騒なことを問われたルイージは呆然と目をしばたかせて、いきなりなんだいと脱いでいた帽子をベッド脇のテーブルに置いた。
「いや、別に大したことはないんだ。こっちのルイージもそうなのかなあって」
「ペラペラのボクはそんなに物騒なの!?」
「そうじゃないよ。とあるきっかけでそうなっただけさ。」
ノワール伯爵の部下に洗脳され、ミスターLとして明確な敵意を向けてきたのはまだ記憶に新しい。当時はルイージだという事に何故か気づかなかったのだけど、今思い返すと背筋がゾッとする。自分に対してそんなにも恨み妬みがあったのかと。確かに心当たりはある。上機嫌で歌を歌っていたときに乗っていた岩を爆破したり日記を勝手に読んだり。だがちょっとした出来心であって、そこまで憎んでいるとは思ってもいなかったのだ。
「うーん。まあたしかに兄さんにはちょっと困ったこともあるし、サーフボードにされたりピーチ姫の格好させられたり酷い目に合わされたこともあるかなあ」
サーフボードってなんだ。そしてルイージはこっちでも女装癖があるのか。ペーパーマリオが頭にはてなマークを浮かばせている間にもルイージの話は続く。
「でも殺したいほどは流石にないかなあ。だってボク兄さんがいないとなにもできないもの」
「洗脳されても?」
「洗脳されても。前にね、夢の中ですっごく大きくなって巨大な敵と戦ったことがあったんだけど、兄さんの姿を見るまで怖くて逃げたかったんだ。でも今兄さんを守れるのはボクだけだって思ったら不思議とチカラが湧いてきて、最後はクッパとさえ戦えるようになったんだよ」
ルイージ、キミ結構ハチャメチャだね。こっちのルイージも人のこと言えないけど、きみには負けるよ。
ペーパーマリオはちょっとため息をついて、ジマン話が好きで少し臆病な自分の弟に思いを馳せた。どうせあいつのことだから、どこかのんびりできる場所でのんきに昼寝でもしてるのだろうな、と。
「それに結構前、兄さんが病気で倒れた時、ジャンプすら出来なかった。よく覚えてないんだけど、催眠術で自分のことを兄さんって思い込んでたから助けられたんだと思う」
だからボク、やっぱり兄さんがとなりにいないとなにもできないや。
ふにゃりと笑った後、すやすやと寝息が聞こえてきて、ペーパーマリオは無意識に詰めていた息を吐き出したあと、マリオの眠るベッドに体を向けた。
「だって、マリオ」
「きみボクが起きてたの気づいてあえて聞いたな?」
じとりと恨めしげな目線が布団の間から飛んできて、ペーパーマリオは思わず吹き出してしまった。
「ずいぶん弟に好かれてるね、ちょっと羨ましいや」
「あげないぞ?」
「取らないよ。ルイージはふたりもいらない」
あ〜、と苦悶の声を上げながらマリオは髪を掻き毟った。
「きみのルイージは聖人君子みたいだ」
ケラケラ悪びれもなく笑うペーパーマリオを睨みつけて、マリオは上体を起こす。
そうして少し考え込んだあと、あまり言いたくないけど、ボクならいいか。と言い置く。
「ルイージの夢の一番深い場所でね、ルイージの精神が渦巻いてるのを見た。正直見ちゃいけないものを見た気がするよ」
留守番はいやだ。ボクはドジじゃない。兄さんの背中カッコイイ。兄さん。兄さん。
「ずっとボクを呼んでいるんだ。もっと違うことはないのかってくらい。ひとりくらいボクに恨みを持っているルイージがいてもおかしくはないのに、あいつったらこんなこと言ったんだ」
ルイージは兄さんについていくよ。ここにいるルイージはみんな兄さんの味方だから。
「重度なブラコンだね」
「ホントだよ!違う意味で気が狂いそうだった」
肩をすくめてそんなことを言い放つマリオに、ペーパーマリオは口角を上げた。
「キミもそうだと思うけど?」
「……正直最近ルイージがとなりにいないと落ち着かない」
ほらね、と得意げなペーパーマリオに、マリオは眉を吊り上げ叫んだ。じゃあきみはどうなんだよ!
「出来る弟がいるっていうのもちょっと寂しいかなあ」
ペーパールイージ。聞こえますか。きみの兄も結局ブラコンです。
20160205
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