篠突く雨


振り返るとまるでナイフのようだった。

マホロアはずっと船内でローアの修理をしており、滅多にローアから差し込む日の光以外を浴びなかった。そんなマホロアにプププランドを案内したくてしょうがなかったカービィは一度だけ、強引に浮いた手を引っ張って連れ出したことがある。

「あのね、オレンジオーシャンの夕焼けはほんとにきれいなんだよ!今からワープスターで向かえば間に合うから。ね?」

明日はちゃんとパーツ集めるから、と必死に頼むカービィに仕方なく折れたマホロアは恐る恐るワープスターを掴んで、見届けたカービィはしゅっぱーつ!と片手を上げた。
ワープスターはゆっくりと高度を上げ、やがて風を切り始めた。悲鳴をあげるマホロアにカービィは振り返ってにこにこしている。

「ローアだと思えば大丈夫だよ」

「ソウは言ってもネェ!勝手がチガウんダヨ!」

ぎゃいぎゃい騒いでいたマホロアも、バタービルディングを過ぎグレープガーデンに差し掛かった時には慣れたのか大人しくなった。きょろきょろと忙しなく視線を彷徨わせてはレモン色の瞳に流れる風景を映している。カービィは前を向いたまま機嫌よさそうに、この場所を初めて通ったときはこう思っただとか落ちそうになって危なかっただとかぺちゃくちゃと喋っている。マホロアは尽きないカービィの話題を半分聞き流しながら開いた口が塞がらない様子で(ローブで隠れて見えないが)空や地面を見つめていた。

やがてヨーグルトヤードも終盤に差し掛かり、空も若干橙色に色付いてきた頃、マホロアはぽつりと呟いた。

「……こんな風景、全部コキョウじゃ見れないヨォ」

未だにひとりで話を続けていたカービィはぱちりと目を瞬かせた。

「マホロアの故郷はどんなところなの?」

「ウーン、あんまりイイトコロとは言えないかナァ」

それきりマホロアが口を閉ざしたので、カービィは言及せずに元のお土産話に戻った。

オレンジオーシャンにたどり着いたとき、夕焼け色に染まったマホロアの目がゆっくりと見開かれたのをカービィは今でも忘れたことはない。スゴイ、と一言ぽろりと落ち、慌てたようにいつもの饒舌さを取り戻したものだが、カービィにとっては落ちた一言だけが飛び上がりそうなくらい最高に嬉しかった。青空のような彼のローブが赤く染まったあの日のことを、カービィは鮮明に覚えている。


あの零れた一言はきっと、嘘で固められていない本心の言葉だったのだろうなとカービィは思い返す。だってあんなにも嬉しかったんだもの。
嘘をついたマホロアの言葉はナイフのようだった。雨のように降って、針のようにカービィのやわらかな体を貫いた。現実はマホロアの体をカービィの剣が貫いたのだが、それさえも霞むほどの大量のナイフだった。呪詛のように叫ばれた名前が鼓膜に今もこびりついている。つけられた傷跡は確かに残っていた。
でもカービィは気にしない。悩んでいたらおなかがへるだけだ。それになんとなく、また会えるような気がしたのだ。あしたはあしたのかぜがふく、がカービィの座右の銘である。きっとそのうち、それはもうペンペン草が生えるみたいにひょっこり顔を出すのだろう。

「ねぇ、あの時はオレンジオーシャンで止まったけど、あの先にはレインボーリゾートっていう星がとオーロラがきれいな場所と、夢の泉っていう良い夢を見せてくれるおたからがある場所があるんだけど、一緒に行かない?」

20150906

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